【コロナと闘う 医療最前線】白衣洗う業者見つからない/近所の人の目怖い 差別・中傷に苦悩
感染者を受け入れている広島県内の総合病院。夜勤を終えた女性看護師が帰ろうと外に出ると、声が聞こえてきた。「ここにコロナ患者が入院しとるらしい。ウイルスばらまかんでほしいわ」。病棟を指さす男女2人の会話。マスク越しだが嫌悪感に満ちた表情が分かった。
■すれ違いざまに距離
その女性看護師が院内から出てくるのが見えたのか、男女はすれ違いざまに距離を取った。「怖いものを見るような視線がショックで…。行き場のない思いをこらえて日々奮闘している仲間を思うとやりきれない」。悲しかったが反論はできず、足早に立ち去った。
医療従事者への不当な差別や誹謗(ひぼう)中傷が深刻だ。広島県内でも心ない言葉や態度が医療者たちを追い詰める。
全国の病院職員らでつくる「日本医労連」が4月に行った実態調査では「職員への差別的対応・ハラスメントがある」との回答が多数あった。広島県内の病院の労働組合にも、現場の苦悩が寄せられている。
「感染者が使ったリネン類や看護師の白衣を洗ってくれる業者が見つからない」「子どもを預ける保育園や勤務先を知っている近所の人の目が怖い」―。感染者を担当する看護師が他の職員から露骨に避けられたり、エレベーターに同乗するのを嫌がられたりする院内の偏見もあった。
デマも後を絶たない。検査を引き受けている県内の病院に勤める女性医師は「おたくの看護師が感染したとうわさになっている」と複数の患者から聞いた。驚いて、すぐ否定したが、患者の家族から「入院させたくない。付き添いもしない」とはねつけられた。
感染者が確認された県内の自治体の別の病院でも、その病院の職員が感染したというデマに困った。風評被害で患者は半減。退院患者の受け入れを市外の介護施設に頼んだが、地名を言っただけで断られた。病院の医師は「未知のウイルスへの恐怖心と生活圏に感染者がいる不安が冷静さを奪い、病院や働く人への攻撃につながっている」と話す。
■現場支える使命感
そうした「攻撃」にさらされながらも、現場を支えるのは医師や看護師らの使命感だ。県内のある感染症指定医療機関では「感染症病棟の担当にしてほしい」と他の診療科の看護師が志願したという。労働組合の担当者は「今までにない感染症だからこそ、自分たちが頑張らなければ―という思いがある。緊張感と高揚感が日々の激務を支えている」と説明する。
その使命感も、攻撃の度が過ぎればなえてしまいかねない。大量離職の果ての医療崩壊を起こす引き金にもなる。ある病院のベテラン看護師は「モチベーションを保つためにも中傷はやめてほしい。今は応援の声が、喉から手が出るほど欲しい」。(ラン暁雨)
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