【コロナと闘う 医療最前線】手術延期、不安抱く患者たち 病院も病床確保に苦心
「喉の手術を延期させてほしい」。広島県府中町の女性(31)は4月半ば、病院からの電話に言葉を失った。術後、新型コロナウイルスに感染すると「命にも関わる」と説明された。仕方ないと思いつつ、不安は募る。「コロナの収束を待つなら手術は1年先か2年先か。その間にも病気は着実に進行するのに…」
女性は喉の炎症などが引き起こす腎臓病を患う。腎不全に陥りかねない難病だ。1月末に診断され、手術を勧められた。医師から「最も効果が高い」と言われ、迷った末に覚悟を決めた。勤め先にも事情を伝え、5月の連休明けに手術を受けるはずだった。
女性は「他の病気でも手術が後回しになっている人がいるよう。私の順番はいつ回ってくるんでしょう」と案じる。手術の延期を受け、職場には時短勤務を申し出た。「給料は減っても病気を抱えたまま多くの人に接し、感染する方が怖いから」とため息をつく。
感染症以外の診療を制限する病院は、全国的に増えている。肺がんの化学療法を受ける広島市中区の50代主婦も、担当医から「今後はなるべく検査の間隔を開ける」と告げられた。「取り残された感じがして、不安で押しつぶされそうだった」と振り返る。
しかし病院側の事情も深刻だ。外科、耳鼻咽喉科などの各学会は、飛沫(ひまつ)が散り、感染リスクが高い処置や検査は延期するよう呼び掛ける。院内感染を防がなければ、医療崩壊につながりかねないからだ。感染者向けの入院ベッドを守る必要もある。そのため厚生労働省は、医師が「不急」とみなした手術や入院は延期するよう促す。
現場は実際、ベッドのやりくりに苦心している。
県内のある病院は3月末、感染者の入院に備え、約40床のフロア一つを丸ごと空けた。入院が少なければ残ったベッドは無駄になるが「感染拡大を防ぐためには仕方ない」と男性院長。ただ一般患者の受け入れを抑えた影響もあり、4月は延べ患者数が前年より2割ほど減った。院長は「経営面の打撃も深刻」と打ち明ける。
人繰りの問題もある。感染症指定医療機関の福山市民病院。感染者の対応に当たるスタッフは心身の疲労を積み重ねている。植木亨診療部長は「病院全体でバックアップするため、急を要さない病気の手術や検査入院は延期させてもらっている」と説明する。4月の手術数は前年より15・5%減った。
緊急性の高いがん、心臓病などの手術は予定通りにこなせているという。が、植木部長は感染の第2波の到来を危惧する。「今も油断できない。感染爆発が起きて医療が崩れたら、助かる命も助からなくなる」
さまざまな診療が脅かされ、医療崩壊がじわりと近づいてくるのを実感した現場は、中国地方5県が政府の緊急事態宣言の対象から外れても危機感が消えない。外出自粛の緩和が進むが「引き続き感染予防の意識を持って過ごして」と願う声は強い。(田中美千子、高本友子、衣川圭)
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