【インサイド】広島県借り上げの1棟、未稼働で終了 軽症者用ホテル、活用に課題
▽住民同意や契約に工夫を
新型コロナウイルス感染症で軽症や無症状の感染者の受け入れ先として、広島県が確保した広島市内のホテル1棟が、稼働できないままで終わった。県は1カ月分の賃料3960万円をホテル側に払う。重症者を治療する病院の入院ベッド(病床)を空けるためには宿泊施設の活用は欠かせない。今回の「失敗」は、近隣住民の理解を得る手法や契約の在り方などで、自治体に課題を突き付けた。
県が感染者の受け入れを目指したホテルは広島市中心部に建つ。県と交わした1カ月間の借り上げ期間は5月13日に終了。現在は通常の営業に戻っている。
県がホテルと契約を結んだのは4月14日だった。事前調査で協力の意向を示していた26施設の一つ。200室を確保でき、市内の感染症指定医療機関に近い。県外の系列ホテルでは受け入れの実績もあった。
■医療崩壊を懸念
同じ日。湯崎英彦知事は記者会見でこの案件に言及している。3日前の11日、三次市で県内初のクラスター(感染者集団)を確認。「軽症者がかなり病床を埋めていく。ホテルの確保は重症者をケアするために重要だ」と訴えていた。
県幹部は「当時は病床が埋まり、医療崩壊も起きかねない状況だった」と振り返る。県によると契約に先立ち、ホテルの地元の町内会役員には計画の概要を説明し、同意を得ていたという。県内の医療態勢を維持するための「切り札」は、その効果を発揮する環境が整ったはずだった。
流れが変わったのは、16日に急きょ開いた住民説明会だった。医療資材を搬入する様子などで気付いた住民からの申し入れで開催。出席した住民から「感染者を受け入れる事実を隠していた」と反発を受けた。18日に再度開き、専門家を招いて不安解消に努めたが、事態を打開できなかった。
■「公金が無駄に」
複数の出席者によると、住民側には感染を不安がる声が根強かったという。県は結局、18日までに稼働させるとした当初の計画を断念。感染者の治療に当たる医師や看護師の宿泊先への転用も内部で検討したが、同意は得られないと判断した。療養用として、近くに住民がいない県内の別のホテルで130室を確保した。
広島市のホテルは誰も使わなかったが、県は予定通り賃料を払う。「公金を無駄にした」と問題視する県議たちの声に対し、県健康福祉局の田中剛局長は「危機管理上、必要な経費だった」と理解を求めた。今後は賃料の支払いが受け入れ後となるよう、契約方法の見直しを検討するという。
契約の在り方以上に、住民の同意をどう取り付けるかが問題だとする声は強い。県議会には「緊急事態には、住民の理解を待たずに受け入れてもいいのではないか」(ベテラン県議)との意見がある。
実際、大阪府の吉村洋文知事は「医療崩壊を防ぐためと理解してほしい」として、住民説明なしにホテルで感染者を療養させた。ただ、広島県健康福祉局の福永裕文総括官は「住民の理解をしっかりと得てから活用したい」として、強引な手法とは距離を置く。
県は現在も計500室の確保を目指し、街中のホテルなどとの交渉を続けている。広島大病院感染症科(広島市南区)の大毛宏喜教授は「新型コロナを不安に思う住民の気持ちは理解できる。県はホテル確保の意義はもちろん、感染を巡る科学的な事実を分かりやすく説き、不安を取り除く必要がある」と指摘する。(樋口浩二)
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