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【クラスターとの闘い 障害者施設 見真学園の52日】<3>志願の看護師、利用者の心身をケア

2020/6/17

見真学園の児童棟。健康観察をする橋本さんのまなざしは真剣だ(撮影・高橋洋史)

 ▽「現場の役に立ちたい。じっとしていられなかった」

 「コロナと闘う医療現場の役に立ちたい」。引退したばかりの看護師吉本広子さん(63)は4月半ば、広島県ナースセンターに電話をかけた。もう、じっとしていられなかった。打診されたのは、クラスター(感染者集団)が発生した見真学園(広島市佐伯区)での勤務。迷うことなく飛び込んだ。

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 看護師になって40年。昨年12月、市内の看護学校の副校長を退き、久々に自宅で過ごしていた。しかし、現場は多忙を極め、誹謗(ひぼう)中傷も受けている。「子どもたちも独立した。私なら大丈夫です」。自ら、そう伝えた。

 4月27日に通い始めた学園には、同じ思いの看護師がもう一人いた。一足早く、22日に現場入りした橋本奈々さん(31)だ。

 休職中に声を掛けられ、二つ返事で引き受けた。「何も貢献できていない。そんな罪悪感がありましたから」。災害支援ナースとして、西日本豪雨の被災地に赴いたこともある。感染リスクも怖くはなかった。「早く困っている人のもとに行かないと。思うのはそればかりでした」

 ■防護服に挿絵

 学園に平日欠かさず通う医療者は、この2人だけ。県内の病院から代わる代わる派遣される医師らと連携し、利用者のケアに当たった。吉本さんは「日々の健康観察には、かなり神経を使いました」と振り返る。

 不調があっても言葉で訴えられない人も多い。呼吸音、顔色、体の動かし方などを手掛かりに、2人は体調の変化を慎重に探った。「最近、胸をよくたたく。大丈夫でしょうか」「少し食欲が落ちている」。そんな職員の気付きにも助けられた。行政などの後方支援にも感謝する。

 感染を防ぐために全身を防護服で覆うと、物々しくなるのも心配だった。「利用者さんを怖がらせたくない」。橋本さんのアイデアで毎日、粘着テープで名札を作った。アンパンマンやドラえもん、雨の日はカエルさん…。イラストを日替わりで書き添えると、利用者が目を輝かせるようになった。

 そんな2人に職員も厚い信頼を寄せる。「毎日、同じ人がプロの目で変化を追ってくれる。どんなに心強かったか」。陽性の利用者をケアしてきた男性職員(32)は、そう力を込める。

 園内では感染が収束し、穏やかな表情が広がる。2人の仕事も今月末まで。学園が日常に戻れるよう、体調管理を続ける。

 ■悩み聞き取り

 クラスターとの闘いの伴走者は他にもいる。市佐伯保健センターの保健師たちだ。とりわけ腐心したのは職員のケア。発生の日からいまだに一度も帰宅せず、泊まり込みで非常事態に向き合ってきた人もいるからだ。

 保健師はそれぞれ担当する職員を決め、個別のやりとりを続けた。「よく眠れていますか」。そんな問い掛けに、電話口から涙声が返ってくることもあった。実際、ある女性職員は「同僚には言いにくい悩みも受け止めてもらい、本当に救われた」と打ち明ける。

 センター長の富安真紀子医師(47)は「利用者さんを思うあまり、自分のことを後回しにしがちな人が多い」と案ずる。「ストレスチェックを続けたい」。園が独自の自粛生活を終えるまで、センターの支援も続く。(田中美千子) 

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  • 利用者の手を取り、声を掛ける吉本さん(撮影・高橋洋史)

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