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【クラスターとの闘い 障害者施設 見真学園の52日】<5>家族と離れ「自粛」貫く

2020/6/19

ハイハイする娘の動画を見つめる見真学園の男性職員。会えなくなって2カ月が過ぎた(撮影・高橋洋史)

 ▽地域と信頼結ぶため。できる限りの努力を

 携帯電話に届いた動画には、もうすぐ1歳になる娘の姿が映っていた。「あ!ハイハイした」と妻。「お父さんに教えてあげよう」と息子の声が続く。見真学園(広島市佐伯区)の施設責任者の男性職員(47)はもう2カ月以上、家に帰っていない。男性は「決定的瞬間を逃しました」と苦笑いする。

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 集団感染が起きた4月13日から、職員の大半は家族と離れ、園内の寮などに寝泊まりしている。陰性の25人は市が借り上げたホテルも使ったが、今月3日に感染が収束すると、自ら学園に戻ってきた。

 ■繰り返さない

 そこまでして自粛生活を貫くのはなぜなのか。一つは、壮絶な体験を繰り返したくないとの強い思いが職員たちにあるからだ。

 ある男性職員(60)は、救急車を呼んだ夜を忘れられない。次から次に感染者が増え、先が見えない時期だった。仲間の1人を乗せた救急車を見送りながら「自分も倒れたら、ここから逃げられるのに、と思ってしまった」。心も体も疲れ切っていた。「あんな思いはもうしたくない。だから万全を期したいんです」

 もう一つは、地域と信頼を結び直したいから。発生当初、学園は猛烈な誹謗(ひぼう)中傷を受けた。ある女性職員は「自分が帰れば、家族が感染を疑われかねない。巻き込みたくないんです」と打ち明けた。地域に「もう安全だ」と受け入れてもらえるまで、できる限りの努力をしたい―。妥協しない姿勢から、そんな気持ちが見え隠れする。

 ■新たな生活へ

 壮絶な52日間の闘いは、学園の「これから」にも変化をもたらそうとしている。職員たちは、感染防御に今まで以上の力を入れようと話し合いを始めた。

 学園のケアの理念は「利用者は家族と同じ」。以前は食事や歯磨きの生活介助には、マスクもゴム手袋も着けていなかった。でも今後は、利用を検討するという。「理念は捨てないが安全意識を変えよう」「利用者を守るため、必要な線をきちんと引こう」。そんな声が現場から上がる。

 今月末で自粛は終わりにする、と決めている。7月1日、学園の新たな生活が始まる。

 =おわり

 ▽偏見を捨て学園に学ぼう <取材を終えて>報道センター社会担当 田中美千子

 まずは、取材に応じてくれた学園に感謝したい。彼らは心ない言葉を浴びせられ、偏見にさらされてきた。学園の関連施設の利用者だというだけで、病院の受診や商店での買い物を拒まれた人もいると聞いた。紙面に出たら、学園に目が向く。また標的になりかねない―。そう思い悩んだはずだ。

 それでも、施設責任者は「私たちの体験が教訓になるなら」と受け入れてくれた。取材を通して初めて、過酷を極めた52日間の闘いぶりが見えてきた。

 学園に暮らすのは、知的障害がある人たちだ。新たな環境になじみにくく、入院治療が難しい人も少なくない。どうしても、園内で療養することになる。

 学園では今回、陽性でも症状の軽い職員が現場にとどまり、同じく陽性となった利用者のケアを続けた。最後まで、自前の職員だけで闘い抜いた。が、取材では「症状の重い人がもっと多ければ、乗り切れなかっただろう」との声も聞こえてきた。

 障害者や高齢者のケアには「密接」が欠かせず、施設ではクラスター(感染者集団)が起こりやすい。万一の時、誰がどうケアに当たるのか。それぞれの施設で考えておく必要がありそうだ。

 支援者への感謝の言葉を、職員たちから繰り返し聞いたことも心に残っている。例えば、市立舟入市民病院の病院長は、携帯電話で逐一、相談に乗ってくれたという。闘う現場にとって、医療者や行政が思いを受け止め、柔軟かつ迅速に動いてくれることこそが、何よりの助けになる。

 私たち一人一人は何ができるだろう。「誹謗中傷はもう終わりにしたい」。そう言って、実名取材に応じてくれた人がいた。彼女の言葉をかみしめたい。新型コロナウイルスとの闘いが、どう大変だったのか。どう乗り切り、どんな支援が役に立ったのか。偏見を捨て、学園から学ぶことこそが、私たちの力になる。 

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  • 今は使われていない園内の食堂。来月には利用者の笑顔が帰ってくる(撮影・高橋洋史)

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