<寄稿>ALS嘱託殺人事件 寄り添うだけが医療か 日本ALS協会広島県支部長で歯科医師の三保浩一郎さん(53)
京都市の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者=当時(51)=の依頼で、致死薬を投与したとして2人の医師が逮捕された嘱託殺人事件―。人工呼吸器を着けて生活する日本ALS協会広島県支部長で歯科医師の三保浩一郎さん(53)=広島市南区=に、事件をどう受け止めたのか寄せてもらった。
▽女性患者の苦悩には理解を
亡くなった女性は胃ろうを着けていたが、人工呼吸器は装着していなかったという。なるほど。現在、「ALS恐るるに足らず」を公言してはばからない私も、安楽死を検討した時期がある。それは女性と同じ時期だ。
徐々に弱っていく体。人工呼吸器を装着しなければ死ぬ。そう言われても当時は、人工呼吸器を装着した現在の暮らしが想像できなかった。
ひとたび人工呼吸器を着けてしまうと取り外すことができないと聞かされた。病状が進行して目も開けられず、完全に意思疎通の能力を奪われる「閉じ込め症候群」になったとしても、頭は明瞭なまま。閉じ込め症候群は、絶対に許容できない。
だが医師からは、人工呼吸器を装着するかしないかの選択、すなわち生きるか死ぬかの選択を求められる。残酷だ。7割の人は装着を選ばない。死にたいわけではない。生きたくても選べないのだ。親より先に死ぬわけにはイカンと思い「オヤジ早う死なんかな」と考えたこともある。もちろん父は健在だ(笑)。
排せつから入浴まで、すべてに介助が必要なことも惨めと感じた。それでも私は生きる選択をした。発症当初、病から目を背ける私をよそに妻は情報収集に熱心だった。そんな妻の「人工呼吸器さえ着ければ、ALSが原因で死ぬことはないんだって! 生きて!」という言葉が悩む私の背中を押した。心を支えてくれる多くの人に恵まれた。人工呼吸器を装着して活躍する先輩患者もまぶしく見えた。
1人暮らしを選んだ女性は、生活のすべてが他人による介助だった。どんな思いだったのか。人工呼吸器を装着するかどうかは患者に選ばせているのに、途中で死ぬことを選んじゃいけないの? 女性の判断を責めないでほしい。そう思うに至った過程を責めないでほしい。
一方で、今回の事件は「医療とは何ぞや」に関わってくると考える。
歯科医である私は、自らの医学知識に基づいた治療方針と患者のリクエストとの乖離(かいり)に頭を悩ませた経験が数多くある。例えば、抜かなくても治療できると判断する歯を、患者は「何度も通院しとうないけぇ抜いてくれ!」「いや抜けません」「抜いてくれ!」「抜けません!」「抜け!」。こんなやりとりもあった。
医師は医療倫理に基づいた医療を提供して、対価を受け取る職業である。一方で患者の要求に応えるサービス業的な側面も持ち合わせている。そのバランスが必要なはずだ。
今回逮捕された医師は、医療はサービス業だと割り切っていたのだろうか。厚生労働省の元技官が聞いてあきれる。大学で何を学んだのだろう。たとえ女性から安楽死の希望が寄せられようとも、彼らは女性の体と心をよく知る主治医に相談すべきだった。医師であるならば特に。
逮捕された医師は、女性にとっては思いに寄り添った存在だったのかもしれない。しかし、今回の行為は私の考える「医療」とは大きくかけ離れたもので、許しがたい。女性の心情を見抜けなかった主治医も無念だっただろう。
ALSのような、治らないとされる病の場合には、心まで病に侵されないようにしたい。いつの日か治療可能な病になる。そう信じて、私は生きる。
みほ・こういちろう 67年東京生まれ。広島大歯学部卒業。02年に広島市南区にみほ歯科医院を開く。11年にALSと診断され、12年に閉院。14年から日本ALS協会広島県支部長。16年に人工呼吸器を装着した。19年3〜10月、本紙朝刊くらし面に「ALSひるまず力まず」を連載。
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