地域ニュース

自らの手で社会守ろう  編集局長・下山克彦

2020/4/15 1:14

 かつて経験したことのない春だ。国の緊急事態宣言から1週間がたった今も、新型コロナウイルスは猛威を振るう。中国地方でも感染者は100人を優に超え、クラスター(感染者集団)も相次ぎ発生。広島県は県民に外出自粛を要請した。国難という言葉に違和感がない、そんな事態だ。

 「密」を防ぐため多くのイベントが中止された。ふだんは歓声に包まれるスタジアムも静まり返る。百貨店は週末休業し、再開したばかりの学校の多くは再び閉じた。親の不安、やむなく閉めた飲食店の悲鳴はこれまで報じてきた通りだ。

 決定的なワクチンや治療薬がない中、自粛や制限は、感染爆発を防ぐために致し方ないのだろう。患者の殺到による医療崩壊を招いては元も子もない。自分は大丈夫との思い込みは捨てよう。すでに感染しているかも、目の前の相手にうつしてしまうかも、と考え行動しよう。一人一人が自らを律し、失われた日常を一刻も早く取り戻したい。

 まがまがしいウイルスは、命を奪い経済的な損失を生むだけではない。人々の心の中に、不寛容の調べを奏で始めてもいる。

 マスクを求め店員に毒づいたり、感染者をインターネット上であげつらったり。他者への厳し過ぎる視線も散見される。異なる立場や意見を受け入れぬ、とがった感情に覆われてはないか。この感染症とは長く厳しい闘いになる。どう乗り越えるか、私たちの社会が試されている。

 新聞もそんな社会の一員だ。確かな情報を詰め込んだ新聞を毎朝届け、ホームページ「中国新聞デジタル」に最新ニュースをアップするために、われわれはある。コロナ対策に入念に取り組む新聞販売所も含め、全力を挙げている。

 そして悩みもする。例えば知り得た情報をどこまで伝えるべきなのか。感染拡大を防ぐためにすべてを包み隠さずに、との考えもあろう。しかし下手な報じ方は風評被害を生みかねず、何より感染者や周辺を傷つける。公益か、プライバシーか。未曽有の事態は日々、私たちに判断を迫る。

 一方、市民が苦境にある際、行政が分かりやすい施策で暮らしを支えるべきで、地方自治体ができることは多い。国の経済支援を周知することも大切だし、オンライン授業といった教育面の取り組みも求められる。何より医療崩壊を招かぬことが肝要だ。病床の確保はもちろん、無症状や軽症者向けのホテルなどの確保は急務だろう。広島県のウイルス検査の一部を岡山、鳥取両県が引き受ける、県境を越えた取り組みも始まった。広域で臨む、そんな構えは不可欠だ。

 市民の間にもさまざまな知恵や試みが生まれ始めている。苦境に立つ飲食店を応援するため、持ち帰り商品を紹介するウェブサイトができた。将来の訪店に向け前払いするチケットの発行も始まった。行政に先んじたそんな動きは、日常を守ろうという人々の情熱の表れであり、大切に報じたい。

 社会を形作るそれぞれに今、やるべきことがある。政治は果断に、しかし自由を尊重しながら、ことを進めねばならない。そして市民は意志と覚悟をもって行動し、社会を自らの手で守ろう。新聞がその支えになるよう、私たちも力を尽くす。

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