「黒い雨」訴訟、広島市・県が控訴へ 国要請受け入れ
▽援護区域の拡大に期待
原爆投下後の「黒い雨」に国の援護対象区域外で遭い、健康被害を訴える広島県内の原告全84人に被爆者健康手帳を交付するよう広島市と県へ命じた7月29日の広島地裁判決で、被告の市と県は11日、控訴を決めた。政府に対して、控訴の断念と被害者の幅広い救済を「政治決断」するよう求めてきたが、政府が控訴の条件として「援護対象区域の拡大にもつながる検証をする」との姿勢を示したため、受け入れに転じた。
複数の関係者によると、控訴手続きを済ませた後の12日、松井一実市長と湯崎英彦知事がそれぞれ取材に応じて、控訴を決断した理由や経緯などを説明する見通し。被爆者援護を所管する加藤勝信厚生労働相(岡山5区)も同日、控訴について公表する方針という。被爆75年の節目に出た原告全面勝訴の裁判は、審理の舞台を広島高裁へ移す。
厚労省は広島地裁の判決について、原告全員への被爆者健康手帳の交付は困難として、市と県に控訴するよう要請していた。長崎原爆で国の指定地域外にいた「被爆体験者」を被爆者と認めなかった最高裁の2017年と19年の2度の判断や、健康被害を黒い雨の影響とする新たな科学的知見がない点を理由に挙げた。
これに対して市と県は、援護対象区域の拡大を長年国に求めてきた立場から、控訴しない「政治決断」と被害者救済を強く求めていた。控訴期限の12日をにらんで協議を重ねた結果、厚労省が援護区域の再検討に向けた検証などを始めるとの考えを提示。検証によって現行よりも被害者を救えるとみて、控訴要請を受け入れた。
現行の援護対象区域は、被爆直後の広島管区気象台(現広島地方気象台)の調査を基に、国が1976年に指定した。黒い雨を巡る初の司法判断となった今年7月の広島地裁判決は、この線引きの妥当性を明確に否定し、国に援護対象区域の見直しを迫った。
判決を受け、与野党双方の国会議員から「控訴を断念するべきだ」との声が出た。自民党の岸田文雄政調会長(広島1区)は拡大の必要性に言及していた。
被爆者健康手帳の交付は国からの法定受託事務。市と県は国の代わりに手帳の交付を担うため、今回の裁判では市と県が被告となっている一方、制度設計に裁量の余地がない。
▽幅広い救済、迫る責務
【解説】「黒い雨」訴訟で広島市と広島県が控訴に転じる決め手となったのは、厚生労働省が援護対象区域について「拡大にもつながる検証をする」趣旨を約束した点だった。検証で区域が広がれば、訴訟に加わっていない人の救済にもつながるためだ。ただ、原告からは強い反発が予想される。被告の立場を超え、原告に寄り添った姿勢が求められる。
被爆者健康手帳の交付は国の受託事務で、実務を担う市と県は今回の訴訟で被告となった。一方で両者は長年、被害者救済に向けて援護対象区域の拡大を求めてきた。原告の思いが分かるだけに、難しい判断を迫られた。
市と県は控訴を求めてきた厚労省との協議で、黒い雨の被害者をより広く救済できるかどうかにこだわった。今回の訴訟には国も参加しており、控訴の権限を持つ。政府が控訴を断念する可能性が極めて乏しい中、譲歩を引き出そうとぎりぎりまでやりとりをした結果の決着と言える。
市と県は厚労省が検証で区域拡大に踏み切れば、勝訴した原告も早い段階で救済できると判断しているもようだ。ただ、原告側からすれば、被爆者としての認定が先延ばしされるのは間違いない。今回の判断の根底に「被害者救済」があるのであれば、市と県は政府に対して、区域拡大の早期実現を強く迫り続ける必要がある。(久保田剛)
<クリック>黒い雨と援護対象区域 原爆投下直後に降った放射性物質や火災のすすを含む雨。国は被爆直後の広島管区気象台の調査を基に長さ約29キロ、幅約15キロの卵形のエリアに降ったと判断。このうち広島市中心部の爆心地から市北西部にかけての長さ約19キロ、幅約11キロの区域を「大雨地域」とし、1976年に援護対象区域として指定した。援護対象区域で黒い雨を浴びた住民は、国による健康診断が無料で受けられる。がんや白内障など国が定める11疾病と診断されれば、被爆者健康手帳が交付され、医療費が原則無料になるなどの国の援護策の対象となる。
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