救済制度、申請・審査の簡素化を悪用 持続化給付金詐取、5人逮捕から1週間
▽報酬餌に若者勧誘
新型コロナウイルス対策の国の持続化給付金をだまし取ったとして広島県警が摘発した詐欺事件は、指示役ら5人を逮捕して21日で1週間となる。5人は、困窮する事業者を素早く救済するために手続きが簡素化された制度を悪用。報酬目当てに飛びつく若者を利用して詐取を繰り返したとみられ、5人の逮捕後に複数人が「自分も関与した」と名乗り出るなど余波も広がる。県警は、より上位の指示役がいる可能性も視野に捜査を進めている。
8月中旬、県内の大学生が相次いで「不正受給に関与してしまった」と警察署へ駆け込んだ。共通の友人に「10万円もらえる」と誘われ、何者かに運転免許証や通帳などの画像を会員制交流サイト(SNS)で送ると、間もなく口座に持続化給付金として100万円が入金されたという。
県警は、誘われた大学生やアルバイトら十数人を特定して事情を聴き、入金記録や個人情報の送信先などを捜査。何者かと共謀して給付金計200万円を詐取したとして指示役の無職A(28)=東京都足立区、無職B(37)=広島市安佐南区、勧誘役の大学生(21)=廿日市市=ら5容疑者を逮捕した。
▽「ねずみ講」的
捜査関係者によると、5人は大学生らの個人情報を悪用。大学生らを個人事業主と偽って前年分の確定申告をするなどして必要書類をそろえ、中小企業庁のホームページから大学生らの名義で給付金を申請し、それぞれ100万円を入金させていた疑いがある。大学生の容疑者がマージンを得て高校や大学の同級生らに持ち掛けていたほか、5人以外の人物が関与していた疑いもある。
給付金の申請は5月に始まり、県警が捜査する不正受給の多くは6〜7月に申請されていた。不正受給の総額は1千万円を超すとみられ、その大半を無職Bが大学生らから回収。大学生らは報酬として10万円程度を得ていた。大学生らがマージン目当てで知人を誘うなど「ねずみ講」的に広がったとみられ、関係者は「国が不正対策を強める前に取れるだけ取ろうとしていた」と話す。
「名前や住所などの個人データがあれば、事業主と偽り前年分の確定申告ができる。さらに今年の収入に関する架空帳簿を作れば不正な申請、受給は可能」。広島市内の税理士は「許されない行為」と前置きした上で、持続化給付金の仕組みを解説する。
申請が始まった5月以降、この税理士には資金繰りに苦しむ飲食や観光関連業者からの相談が相次ぎ、申請を支援した。「事業者は生きるか死ぬかの瀬戸際だった」と振り返る。
▽性善説で設計
国はスピードを重視した「性善説」に基づく制度を設計。申請や審査を簡素化した。支給は今月19日時点で約360万件、約4兆7千億円に上る。半面、全国で不正受給が多発し、40人以上が逮捕されている。中央大法科大学院の酒井克彦教授(租税法)は「行政の監視が不十分。国は警察と連携して全容を解明し、とりわけ犯行を指示した人物の追及を緩めてはいけない」と指摘する。
県警は、不正受給した大学生らの立件の可否も検討している。広島市内の男性は「通帳の『ジゾクカキユウフキン』の文字をみるたびに罪悪感が膨らみます…」。安易に加担した代償は大きい。
<クリック>持続化給付金 新型コロナウイルスの影響で資金繰りに苦しむ個人事業主や中小企業を支援する制度。1カ月の売り上げが前年同月比で5割以上落ち込んだ場合、個人事業主に最大100万円、中小企業に同200万円を支給する。5月に専用サイトで申請の受け付けを始めた。相次ぐ不正受給を受け中小企業庁は調査を進めている。悪質な場合は給付金の受給額に加え、年3%の延滞金と、延滞金も含めた給付金の20%相当の加算金を返還するよう求める方針でいる。
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