山口県、市町の会見・議会傍聴席に県職員の姿 やりとりメモ・録音 「前時代的」との声も
山口県内では市町の議会の傍聴席や記者会見場の片隅に背広姿の県職員が現れる。各地で起こる出来事を情報収集し、県政運営に素早く生かすためだという。しかし諸藩の内情を探った幕府の隠密ならいざ知らず、県と市町が対等な令和の世に中国地方5県でそんな業務を行うのは山口県だけ。他県からは「前時代の中央集権的な構造を感じる」との声も。今日も山口県内のどこかで県職員が情報収集に精を出す。
9月28日の柳井市役所。来年2月の柳井市長選に向けて新人が立候補を表明した記者会見に柳井県民局の山本敏和局長たちの姿があった。「候補者の施策と雰囲気を把握し県の内部資料として使う」という。すぐに報道で流れる情報だが「より早く本庁に上げる必要がある」として記者会見場での傍聴を求めた。
ほかにも田布施町が税金の徴収ミスを内部告発した職員を1人だけの畳部屋に異動させた問題でも県職員はたびたび顔を見せた。町議会の定例会や全員協議会は言うに及ばず、東浩二町長の謝罪会見や記者によるぶら下がり取材にも現れ、やりとりをメモし、ICレコーダーで録音。終日議会に張り付く日もある。山本局長は「情報を上げないと本庁からせっつかれても困る」と話す。
県は各地の情報を集めるのは出先機関の県民局の重要な役割とする。1997年度から順次設置された全7カ所全ての県民局が市町の情報を収集。県総合企画部を通じて知事ら幹部に上げる。首長選がらみの記者会見はほぼ全てに顔を出すという。平屋隆之総合企画部長は「首長の方針で行政の施策は大きく変わる。早くから知っておきたい」と意図を述べる。
集めた情報が県政にどう役に立っているのか県民には見えにくいが、平屋部長は「情報に基づき迅速に対応できた例はある。ただ、個別には検証していない」と述べる。知事が会見で記者から質問に答える材料にもなっているという。
一方、中国地方のほか4県はこうした職務はない。鳥取県広報課の村岡弘章課長補佐は「対等な関係の別自治体にそうしたことはしない。前時代の中央集権的なイメージだ」と疑問を口にする。広島県総務局の田口新也政策監も「聞いたことがない」と驚く。岡山県公聴広報課の玉置明日夫課長は「えっ、どういう考えなんですか」と一言。「知りたい情報は市町村に聞くのが筋。県職員も減っているのに費用対効果からどうなのか」といぶかる。島根県の担当者は「新聞報道や市町へ問い合わせれば事足りる」とする。
これに対し平屋部長は「市町への介入ではない。中国地方でもそれぞれ地域性があり、各県が同じようにはならない」と述べる。「情報は生もの。早く取りに行くためにこれがベスト」と主張。今後も情報収集へ各地に職員を送る。
山口大の立山紘毅教授(憲法)は「違法ではないが、対等なはずの市町が県の顔色をうかがうようになりかねない。そうなれば憲法の地方自治の本旨に反する」と疑問視。大学教授や自治体職員でつくる県地方自治研究所の竹尾久男事務局長も「市民感覚からは率直に変だ。県と市町が現実には上下関係だと透けて見えるような行為ではないか」と批判する。
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