【インサイド】集団移転へ課題山積 江の川氾濫で浸水の島根県美郷・港地区
▽経済的負担や代替地、住民の合意形成が鍵
今年7月にあった江の川の氾濫で被災した島根県美郷町が、浸水被害の大きかった港地区の住民からの要望を受け、集団移転の実現に向けて動きだした。活用する国土交通省の防災集団移転促進事業は、東日本大震災など家を失った被災地で多くみられる。住める状態での移転は珍しいだけに、住民の合意形成をどう進め、経済的な負担はどれだけ減らせるのか。移転先の確保も迫られ、課題は多い。
港地区には12世帯30人が暮らす。1972年の「47水害」をはじめ、浸水被害に悩まされてきた。今年7月、2018年の西日本豪雨に続き、江の川に支流の君谷川の水が流れ込めずにあふれる「バックウオーター現象」で、民家や倉庫計5棟が浸水した。
宅地のかさ上げなどハード整備は見通しが立たず、5世帯が移転を決意。地元の港自治会が町に集団移転を求めた。10月中旬にあった町の説明会には6世帯が出席し、自治会の屋野忠弘会長(78)は「是が非でも移転事業を完成させていただきたい」と要望。住民も移転の意思が一致していることを確認した。
災害への危機感は強く、町が描くスケジュールは駆け足だ。21年度に事業計画を策定。早ければ22年度に移転先を造成し、23年度には移転を始める―。
■要件引き下げ
この通りに進むかは、まず住民の合意形成が鍵になる。国交省は今年4月、この事業で移転先に造成する住宅団地の要件を「5戸以上」とし、「10戸以上」から引き下げた。東日本大震災では約3万7千戸が活用した一方、ほかは1972年から延べ35市町村計1854戸にとどまる。中国地方では、75年に益田市で離島の高島から本土側に11戸が移った例しかない。
国交省によると、住民全員の同意を得るのが難しいのが要因の一つという。地震や噴火で自宅が住めなくなって選択肢が絞られたケースとは異なり、家はある浸水被害の場合は住民の思いがまとまりにくい。町建設課の添谷正夫課長は「1軒でもやめると言われたら事業が成り立たない。住民への情報提供を密にし、丁寧に説明しながら進めていく必要がある」と話す。
経済的な負担の軽減もポイントとなる。移転先の団地造成は町が担い、費用の大半は国の補助で賄える一方、住民は自らの出費で造成した土地を買ったり、住宅を建てたりする。元の住宅地を町が買い取ることで、その資金に充ててもらう想定だが、現時点で具体的な額は見通せていない。
■限られる平地
移転先の選定も課題で、住民は自宅近くに田畑や墓があり、住み慣れた地区内での移転を希望。しかし、同地区は山と川に挟まれ、高台の平地は限られる。
国交省は今年7月、水害の多発を受け、時間と費用がかかる堤防やダムだけに頼らない「流域治水」への転換を打ち出した。この事業は柱の一つで、都市安全課は要件の引き下げを「山間部などでは集落の戸数が減っている。住民の意見集約もしやすくし、活用を増やしたい」と説明する。
港地区での取り組みが、中山間地域で安心して住み続けられるモデルとなり得るのか。広島大副学長の河原能久特任教授(河川工学)は「今後さらに人口減少や過疎化が進むことも考えられる。行政サービスをどうするのかなど、町づくりのビジョンと合わせて移転計画を議論する必要がある」と指摘している。(鈴木大介)
<クリック>防災集団移転促進事業 市町村が元の宅地を買い取った上で、移転先の住宅団地を造成し、敷地内の道路なども整備する。国がこうした費用の4分の3を補助し、地方交付税を含めると市町村の負担は実質6%で済む。造成について美郷町では1戸当たりの補助限度額が約1千万円となる見込み。造成後の土地購入や住宅建設にかかる費用は住民が負担する。例えば山を切り開くなどして造成費がかさめば、住民負担も増える可能性がある。移転元は災害危険区域に指定され、原則住めなくなる。
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