風評なく営業、日々幸せ 老舗喫茶、笑顔ともす【師走の街角 コロナ禍の流川・薬研堀地区】<6>
広島市中区流川・薬研堀地区を東西に走る「仏壇通り」を歩いていると、「コロナ」と書かれた看板が目に留まった。60年前から営業を続ける老舗喫茶店。店内に入ると昭和にタイムスリップしたようだ。「いらっしゃいませ」。オーナーの戸田冨美子さん(99)が穏やかな笑顔で迎えてくれた。
▽夢託した店名
店名は皆既日食の際、太陽の縁で輝く大気の層にちなんだ。女学生時代に学んで以来、戸田さんが光の輪に抱き続けたイメージは夢や希望。それだけに、新型コロナウイルス感染拡大には複雑な思いを抱く。「何でウイルスの名前がコロナなの? 全然似ていないのにね」
38歳だった1960年に店を開き、同じ建物の2階に暮らし始めた。コーヒー1杯50円の時代から、地区の移ろいを見守り続けてきた。長女の義子さん(78)たちに経営を任せる今も、店にはほぼ毎日顔を出す。カウンターの中央に座り、客とおしゃべりを楽しむのが日課だ。
「夜に街を歩く人がいないでしょう。こんなことはなかったですよ」。戸田さんがマスク越しに表情を曇らせると、義子さんが相づちを打った。「人がいないから(店の前から西に約300メートル先の)中央通りを走るバスがよく見えるって言うお客さんもいますよ」
コロナ禍に大きく揺れた春、義子さんの予期せぬけがも重なり、1カ月半もの休業を余儀なくされた。「店に帰りたい」。戸田さんは店から離れた義子さん方で過ごす日々が続き、そうこぼすこともあった。
▽県外客増える
営業再開後も感染拡大前ほど客は戻っていない。それでも戸田さんたちは前向きだ。周囲から心配された店名による風評被害はなく、常連客も変わらず来てくれる。「本当にありがたくって。幸せしています」。戸田さんは、独特の言い回しで感謝の言葉を繰り返す。
風評被害どころか、広島県外の若い客が増えたという。「ネットで店の名前を知って興味を持つんでしょうか。看板を撮影して帰るお客さんもいます」と義子さん。「第3波」など吹き飛ばすかのように、店内は明るい笑顔が絶えない。
「平和で穏やかに過ごせたらいい。もちろん健康でね」。戸田さんは眼鏡の奥の目を細め、節目の100歳を迎える新たな年に思いをはせる。娘たちに支えられ、常連客との会話を楽しむ。そんなささやかな喜びが元気の源だ。今日も一日の最後につぶやく。「幸せしました」(松本恭治)
【師走の街角 コロナ禍の流川・薬研堀地区】
<1>広島ロック文化支え50年 バー「ジュゲム」閉店へ
<2>人の優しさ、踏ん張る力に スタンドの灯をつなぐ
<3>見詰める街には底力 無料案内所から実感
<4>ネオンに一抹の寂しさ 電気店「明かり守る」
<5>街包む不安に寄り添う 交番「安心・安全守る」
<6>風評なく営業、日々幸せ 老舗喫茶、笑顔ともす
<7>街の華やぎ、一輪に込め 生花店「支え合い 誇り」
<8>検査場、日を追い危機感 歓楽街で感染阻止へ
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