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長年のずさん管理、露呈 尾道市、林芙美子ゆかり直筆原稿紛失

2020/12/10 21:08
紛失した林緑敏の原稿「林芙美子のこと」(2012年撮影)

紛失した林緑敏の原稿「林芙美子のこと」(2012年撮影)

 尾道市は10日、同市で少女期を過ごした作家林芙美子(1903〜51年)ゆかりの人物の直筆原稿2点を紛失したと正式に発表した。一連の問題では原稿を市が受け取った際の記録文書が見当たらず、東京の博物館が所蔵する資料を市のリストに誤って記載するなど、長年のずさんな管理状態が明らかになった。「文学のまち」を名乗るにふさわしい再発防止策が求められる。

 市がこの日開いた記者会見。小玉高嘉企画財政部長は冒頭、「資料リストの更新、物品の取り扱いが不十分だった。申し訳ない」と頭を下げた。紛失した原稿2点は、芙美子の夫緑敏(りょくびん)による「林芙美子のこと」と、同時代の女性作家吉屋信子の「暮春のあの夜」。吉屋の原稿は複製だけ残っていた。

 2点は芙美子の母校である尾道東高から寄託され、多くの関連資料を管理していた市の文学記念室(3月閉館)で展示していた。いずれも市が2012年に原本を撮影しており、紛失はそれ以降とみられる。村上幸弘文化振興課長は「担当者に聞き取りしたが原因は分からない」とした。調査を打ち切ったという。

 80年代以降、市は遺族や同校からたびたび原稿や遺品を受け取ってきたが、管理は長年ずさんだった。寄贈や寄託の際に通常作成するはずの記録が見当たらない。所管課は少なくとも3回変わり、学芸員ではなく事務職員が1人で担当。度重なる異動で情報共有がされにくい構造もあった。

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 記念室の閉館後、同課が資料整理をする中で2点の所在不明が発覚。さらに04年ごろ作成とみられる資料リストには、芙美子の直筆原稿「放浪記」「浮雲」「雷鳥」の3点が市の所蔵として誤記されていた。同課は、資料貸与を希望した市民有志でつくる顕彰会にリストを提供。誤解を与え、現物を所蔵する新宿歴史博物館(東京)への確認も9月まで怠った。

 市は芙美子を含む文学者たちの関連資料約1200点について、年度内に台帳を新たに作成する方針。小玉部長は「寄贈時の記録は現在は必ず作っている。資料を展示などで動かす際は複数人で立ち会う」と強調する。

 福山市立大の八幡浩二准教授(博物館学)は「資料管理の甘さは組織的問題」と厳しくみる。「学芸員など専門人材の薄さも背景にある。他市の管理手法にも学びながら、信頼回復に努めるべきだ」と指摘する。(田中謙太郎)

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