住宅団地のはずが米軍住宅…住民複雑な思い 岩国の愛宕山開発、変遷の末に完了へ
岩国市の愛宕山地域に3月、市が整備する大型遊具を備えた多目的広場が完成し、一連の開発は着工から23年を経て完了する。米軍岩国基地の滑走路を沖合に移設するための埋立用土砂を確保しつつ、住宅団地を造成する目的で始まった開発事業。賛否が渦巻く中、採算性の見通しの甘さから住宅団地の計画は頓挫し、開発地は米軍住宅や運動施設、病院などになった。多くの人々が訪れるエリアに変貌した一方で、複雑な思いを抱く住民もいる。
▽5600人規模 夢のニュータウン
岩国市中心部から南西3・5キロの丘陵地に広がる100ヘクタールの愛宕山の開発地。一角では重機が行き来し、工事が急ピッチで進む。市が整備する3・7ヘクタールの多目的広場だ。屋根付き広場や野外ステージなどの施設が既に完成し、今後はグラウンドに芝生を植え、ローラー滑り台などを備えた大型遊具も設置する。
市拠点整備推進課は「普段は子どもの遊び場として、災害時には救援活動の拠点として活用したい」とする。
市と県が主導して1998年に着工した当初の事業計画は壮大だった。約1500戸の住宅と小学校、公園などを整備。人口約5600人規模の夢のニュータウンになるはずだった。
しかし、岩国基地の滑走路を沖合に移すための掘削土砂の搬出を終えた2007年を前後して事態は急変する。住宅需要の低迷や地価下落を受け、県と市は巨額損失が見込まれるとして計画を中止。収支不足を解消するため開発地の4分の3を国に売却した。国は米空母艦載機の岩国への移転に伴い必要となる米軍住宅を建設。日米共用の運動施設も整備した。
残る4分の1は市が医療・防災の拠点となる「まちづくりエリア」とし、国立病院機構岩国医療センターや、岩国地区消防組合消防本部が入る「いわくに消防防災センター」などが相次いで完成した。
運動施設「愛宕スポーツコンプレックス」では週末のたびにスポーツ大会やイベントが開かれ、日米交流の中核施設になっている。周辺の遊具で遊ぶ親子連れやウオーキングで汗を流すお年寄りの姿も多い。「さまざまな課題を乗り越え、ようやく一区切りつけることができる。日米交流の拠点としてさらに飛躍し、子どもに夢を描いてもらうエリアにしたい」。福田良彦市長は複雑な経過をたどった事業を振り返り、地域発展の拠点とする決意を示す。
▽「住民のための場所でなければ」
「ここまで変わるもんかなあ」。愛宕山を見続けてきた愛宕神社の前大総代、山中守男さん(88)=牛野谷町=は現役の総代たち3人と開発地に立ち、つぶやいた。かつて標高約120メートルの山頂付近にあった神社は、60メートルほど山を削った後の高台に立つ。
開発前の愛宕山は住民が足しげく通う里山だった。「神社の春の大祭には屋台が30、40軒並んだ。近くの土俵で相撲大会も開かれ、大にぎわいだった」「春はタケノコやワラビ、秋はマツタケもよく採れた」。1960年代ごろまでの様子を生き生きと語る。
その後、山裾の開発が進み、斜面に張り付くように住宅が建設された。滑走路沖合移設と連動してニュータウンをつくる計画が浮上した際、住民に異論はほとんどなかったという。山中さんたちは「地元の悲願だった小学校もできる構想。良いことだと思っていた」と口をそろえる。
大総代を山中さんから引き継いだ岡村寛さん(77)=同=は2008年7月「愛宕山を守る会」を結成。神社前の広場で月3回集会を開き、開発地の大半が当初計画にはない米軍関係の施設となったことに抗議の声を上げ続ける。
完成した運動施設には米軍関係者の姿も多い。一方、神社の伝統行事だった相撲大会は昨春、参加する子どもが減った影響で中止に追い込まれた。「愛宕山は地域の信仰の場であり、憩いの場だった。あくまで住民のための場所でなければいけない」。開発事業の完了を前に岡村さんは思いを強くする。(永山啓一)
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