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【江の川氾濫から半年 〜江津・美郷・川本の報告】<上>移転、新たな選択肢に 「堤防置き去り」を懸念

2021/1/16 20:46

江の川沿いに3世帯の集落が残る江津市桜江町谷住郷の大口地区=2020年12月(撮影・高橋洋史)

 昨年7月に島根県西部の江の川が氾濫した水害は、発生から半年が過ぎた。西日本豪雨からわずか2年での被災で、国や市町は減災対策の議論を加速させた。住民には、住居移転という新たな選択肢と引き換えに、堤防整備などが置き去りにされるとの懸念が渦巻く。従来のハード事業だけに頼らない「流域治水」は、島根側の下流域で実行できる対策は限られるとの見方もある。現状と課題を見る。

 江の川と、並行して走る国道の間に、3世帯が暮らす集落がある。江津市桜江町谷住郷の大口地区は川沿いに堤防がない。西日本豪雨では住宅の床上まで浸水し、昨年の氾濫でも軒先まで水が迫った。

 地元住民によると、大口地区は1972(昭和47)年の47水害で、川沿い6軒のうち3軒が流された。83年にも水害に襲われ、国土交通省は2016年に策定した河川整備計画で宅地かさ上げの対象にしたが、着手の見通しはない。

 ▽2年で水害2回

 「住む人も減り、これからかさ上げが進むとは思えない。できるならどこかに引っ越したい」と、自治会長の上田政憲さん(68)。この2年に2回も相次いだ水害の恐怖で、移転が頭に浮かぶようになった。

 被災した世帯を対象に江津市と国が昨年11月に実施したアンケートでは、川沿いに住む211世帯の27%が「条件が整えば移転したい」と回答した。市の想定より多く、住民の危機感はそれだけ強い。

 江の川下流の治水対策を巡り、この半年、にわかに住居移転という選択肢が浮上した。美郷町港地区では住民の要望を受け、町は、集団移転の費用を補助する国事業の活用を決定。早ければ23年度にも実現する。

 ▽制度改正続ける

 国は住居の移転を後押しする制度改正を続ける。集団移転の補助事業は本年度、移転先の住宅団地の最低戸数を引き下げた。近く始まる通常国会には、人員などに余裕がない市町村の委託を受け、都市再生機構(UR)が事業を代行できるようにする法案を提出する。頻発化する水害に、従来の堤防建設などでは追い付かないという見立てがある。

 だが、人口が減った今になって示された選択肢に、住民の抵抗感は根強い。「『堤防造らないから、もうどこかに行け』と受け止めた」「移転の意向を聞かれても、堤防の計画がないと意見は言えない」。昨年11月、国と江津市が市内最大の被災地、桜江町川越地区で開いた説明会。いら立ちが表れた。同町だけで800世帯が被災した47水害から半世紀近い今も、下流の無堤防区間は必要距離約60キロの4割を超す。

 中国地方整備局の佐近裕之河川部長は中国新聞のインタビューに、堤防整備など従来の手法に移転が加わると説明し、「堤防整備が使えるところはしっかりしていく」と強調した。

 川越地区の人口は、西日本豪雨前の18年6月(590人)から2度の水害を経て約15%減った。「水害のたびに1人去り2人去り、堤防の必要性を経済効果で測られては困る」。同地区の一つ、桜江町田津の自治会長河崎敏文さん(69)は訴える。「計画に予算を付けてやるかどうかが問題。早く実行に移してほしい」。住み慣れた土地を離れる動きを招いた整備の遅れを取り戻せるか、問われている。(下高充生)


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  • 江の川の氾濫で、軒先まで水が迫った大口地区。奥が江の川(2020年7月)

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