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「女性になりたい」…法の壁は高く【虹色のあしたへ 性的少数者と社会】<1>

2021/1/25 23:01

性別変更への思いを語るハルさん。法の壁を家族と共に乗り越えられる日を待つ(撮影・河合佑樹)

 「女性になりたい」。広島県内に住む30代会社員ハルさん(仮名)は、妻に静かに切り出した。妻は顔色を変え、なじった。「うそつき。私は男性と結婚したんだよ」。2人の間には3人の子どもがいる。その子たちにも「お父さんは女性になりたい」と伝えた。「元に戻れないの? なんでうちのお父さんだけ?」。数年前の出来事だ。

 ▽違和感にふた

 ハルさんは幼い頃、自分が男か女か分からなかったという。兄を手本に「もう一人の自分」をつくった。体の性への違和感にふたをし、男として生きた。自分が何者か分からない恐怖感に襲われ続け、自死を図ったこともある。インターネットが今ほど普及していない時代。性的少数者(LGBTなど)に関する十分な知識はなかった。

 【表】中国地方の自治体のパートナーシップ制度の導入状況

 20代半ばで結婚し、父になった。戸籍上の性別を変えられると知ったのは30歳を過ぎてから。ずっと我慢してきた思いが、一気にあふれ出した。告白してしばらくは言い争いが絶えなかったが、妻は次第にハルさんの思いを受け入れてくれるようになった。

 それから一つ一つ、壁を乗り越えてきた。本当の自分である女性になるために。

 勤務先の上司や同僚一人一人に打ち明け、丁寧に自分の思いを説明した。子どもが通う学校の教諭にも。病院で「性同一性障害」の診断を受け、手術で生殖腺をなくした。病院などで男性らしい名前を呼ばれた時、つらい思いをしないよう、女性とも受け取れる名前に変えた。「真っ暗だった自分の心に、光が差すようだった」と振り返る。

 それでも現状では戸籍上、男性であることを変えることはできない。性別変更に関する「法の壁」は高く、険しい。

 ハルさんが性別を変えるには、婚姻関係がない▽未成年の子がいない▽別の性別の性器部分に近似する外観を備えている―の要件をさらに満たす必要がある。ハルさんの子どもはまだ未成年。妻との婚姻関係を続けたいとも思っている。

 ▽消えない怖さ

 今、長い髪を結ってスカートをはき、化粧をする。以前よりも心から笑うことができる。子どもとは、性的少数者の講演を聞きに行く。自分の思いを押し付けないよう、子どもの気持ちを聞きながら一緒に前へ進むためだ。

 しかし、葛藤は続く。例えば、子どもの学校の参観日に行きたくても行けない。性的少数者への理解は以前より広がったとはいえ、受け入れられない人はいると思うからだ。「子どもの人生を私が左右してはいけない」。怖さは消えない。

 「本当の私と私たち家族の在り方を、いつ法と社会が受け入れてくれるんでしょうか」。ハルさんは、その日を家族と共に待つ。(小林可奈)

    ◇

 同性カップルを公営住宅の入居条件である同居家族として認めるなど、自治体が独自に認定して性的少数者の権利拡大を図る「パートナーシップ制度」が今月、広島市で始まった。多様な性や家族の在り方を受け止める動きが広がる一方、性的少数者が暮らしやすい社会への道のりは長い。広島県内の当事者の経験と思いから課題をみる。

 【データ】15年間で9600人

 2004年に性同一性障害特例法が施行され、戸籍上の性別を変えられるようになった。司法統計によると、19年までの15年間で約9600人が性別を変更した。

 性別を変えるには、2人以上の医師から性同一性障害と診断された上で、(1)20歳以上(2)婚姻していない(3)未成年の子どもがいない(4)生殖腺がないか機能がない(5)他の性別の性器部分に近似する外観を備えている―の要件を全て満たすことが必要。家裁の審判を経て変更できる。

 日本学術会議は20年9月に公表した提言で、現在の要件は当事者に離婚を強制して子どもも追い込み、生殖機能を奪う「高すぎるハードル」と指摘。特例法を廃止して性別記載の変更手続きを定めた新法を制定すべきだとした。提言によると、20年時点で欧州と中央アジア計54カ国のうち、34カ国は非婚要件がなく、41カ国は生殖不能要件がないなど要件緩和が進んでいる。

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