被曝の影響 娘の健康、尽きぬ不安 【原発事故10年 「浜通りの50人」のいま】<1>
福島県の東部地域は古くから「浜通り」と呼ばれる。2011年の東京電力福島第1原発事故で放射性降下物が一帯に降り注ぎ、多くの人々が避難生活を強いられた。中国新聞社は当時、「フクシマとヒロシマ」と題し、被爆地の視点で1年間連載を走らせた。その中で住民たちの協力を得て定点観測したのがシリーズ「浜通りの50人」。事故から10年の節目に合わせて福島を訪れ、改めて声を聞いた。
一人娘は12歳。この春から中学校に上がる。母の標葉知亨(しねは・ともこ)さん(36)は3年前、大きなショックを受けた。超音波検査で娘の喉に袋状の「嚢胞(のうほう)」が三つ見つかった。
福島第1原発から22キロ北の福島県南相馬市で、事故が起きてからも10日間暮らした。さらに北の同県相馬市に自主避難するまで。「被曝(ひばく)の影響ではないか」。仙台市で暮らす今も疑問が頭から離れない。
■200人、がんと診断
喉仏の下にある甲状腺。事故で放出された放射性ヨウ素がたまれば、がんになる恐れがあり、若いほどリスクが高いとされる。
県は事故当時18歳以下だった県内の全ての子ども約38万人を対象に、2011年度から検査を開始。これまで約250人にがんの疑いがあるとされ、うち約200人がその後の診断でがんと確定した。
当事者や家族の脳裏には原発事故がよぎる。しかし県の県民健康調査検討委員会は「放射線の影響とは考えにくい」とのスタンスだ。旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(1986年)と比べ被曝線量が低いことなどを理由に挙げる。
知亨さんによると娘の嚢胞は県の基準では直ちに精密検査を受けるべき大きさではないという。「あの子はさばさばしているが、母親としてはどうしても心配で」。相談相手は夫の隆三郎さん(68)。相馬市の相馬中央病院で院長を務める。
消化器外科が専門。東北大病院(仙台市)に勤務していた2005年、かつて米国の水爆実験場だった太平洋マーシャル諸島・ビキニ環礁を訪れ、住民らの健康調査に関わった。
現地で聞いたのは日本のマグロ漁船第五福竜丸が巻き込まれた「死の灰」の恐怖。福島の事故でも放射性降下物が広範囲に降った。目に見えず、においもしない物体が人々の暮らしを壊した。当時は南相馬市の病院長。政府の屋内退避指示を受けた混乱で、病院の一時閉鎖に追い込まれた。
東京電力に対する憤りや娘への思いを口にしながらも、妻にはあえて医学者の顔で答える。「健康被害は出ないだろう。娘も心配ない」。県検討委と同じく線量の低さに目を向けた。
■話し合う機会に
最も信頼を寄せる夫の言葉にも、知亨さんの気は晴れない。「事故を機に広島や長崎の被爆者の苦難を知ったから」だという。脱毛などの急性障害に加え、数年から数十年後に襲ってくる白血病やがんなどの後障害。放射線が体にどんな影響を与えるのか。不安は拭えないままだ。
娘は多感な年頃。「煙たがられても体のことを一度、家族で話し合いたい」。福島第1原発事故から10年目の「3・11」が、その機会だと考える。(下久保聖司)
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