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線路に高齢女性 郵便配達員「死んじゃ駄目」【ひと まち】

2021/4/10 8:32

現地で当時の様子を話す有熊さん

 ▽広島中央郵便局坂旧集配センター・有熊智さん(35)=広島市西区

 そのおばあちゃんが踏切内にいるのを見つけたのは2月10日の昼すぎだった。小柄で、背は僕の肩くらい。線路の先の景色を見ているのか、足が悪くて休んでいるのか。ぽつんと立っていた。

 急ぎの配達を終え、昼食を取りに坂郵便局(広島県坂町)に戻ろうと、いつも通りバイクでJR呉線の踏切に差し掛かったところだった。降りたバイクを押して踏切に入り、声を掛けてみた。「こんにちは。大丈夫ですか」。おばあちゃんの声は聞き取れないほど小さかった。「いいんです。今から来る電車で死にますから」

 踏切の外にバイクを止めて、おばあちゃんの所に戻った。目の高さを合わせて「死んじゃ駄目ですよ」と語り掛けると、「いいんです」と言う。急いで携帯で110番をした直後、警報機が鳴り始め、遮断機が下りてきた。

 「もう1本、電車を遅らせましょう。話を聞かせてください」。肩を抱いてゆっくりと踏切の外に導いた。おばあちゃんは顔をくしゃくしゃにして「ごめんね」と泣いていた。

 おばあちゃんに何があったのか。駆け付けた警察官に引き取られたので詳しい事情は分からない。でもその時、2018年の西日本豪雨を思い出していた。土砂災害で犠牲者が出た広島県坂町小屋浦で、配達先だった顔見知りの高齢の女性も亡くなった。大雨が降った日、小屋浦も配達先だった。「足腰の悪い人だった。僕が助けられたんじゃないか…」。災害後、繰り返し考えた。

 だからこそ今回、必死だった気がする。でも、意外と冷静でいられた。高齢者が多い地域での配達だから、とホームヘルパー2級の資格を取っていたのが役に立ったのかもしれない。

 3月上旬、海田署から人命救助の感謝状をもらった。35年の人生で初めてだったけど、当たり前のことをしたと思っている。立ち止まっている人がいたら、見ないふりせず、声を掛けることが大切なんじゃないかな。(二井理江)

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