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【詳報・克行被告第56回公判】最終弁論<4>検察官は政治の自由侵害の警戒心すらない

2021/5/19 1:13

3 党勢拡大活動について

(1) 党勢拡大活動の意義について

 我が国は、近代民主国家として、代議制民主主義を採用しているため、自己の政治上の理念や政策を実現しようとする者は、同様の理念を有する者を結合して政党を組織し、その政党は、選挙において勝利をおさめて議席を獲得し、多数党として政権を担当することによりその政治上の理念や政策の実現を図ろうとする。したがって、政党が、その理念・政策の普及宣伝、党勢拡大等の政治活動を普段から行うとともに、選挙時にはその成果を得るべく一層その政治活動に拍車をかけるのは、代議制民主主義の発展に沿った現象であるというべきである。

 このような代議制民主主義および政党中心の政治において、党勢拡大の成果を示す最たるものは、各級議会において議席を増やすことであるが、党勢を拡大するための活動(以下「党勢拡大活動」という。)はこれに限られるものではなく、これにつながるための広範な活動を含むものである。

 すなわち、選挙において議席を獲得するためには、有権者に対して党の理念を広め、党が目指す政策への理解を得て、党への支持者を増やすことが必要であり、また、より強固に党を支持し、幅広い有権者層に対して党への支持を訴える役割を果たす党員・党友、友好団体を増やすことが重要となる。

 特に、参議院選挙の場合には、選挙区が広いこともあって、有権者との結びつきが強い衆院議員を選出する衆議院選挙に比べて、所属政党を基準として投票先を判断するという傾向にあるため、政党の理念や政策を浸透させるとともに、政党の印象やイメージを良くする必要がある(第69回公判における被告人供述調書(2)11頁)。

 被告人は、第4の2(2)で述べたとおり、広島県における政治情勢を踏まえて、自民党の支持基盤の脆弱(ぜいじゃく)化を危惧していたところ、本参議院選挙は、統一地方選挙と同じ年に行われるという12年に1度の参議院議員選挙であり、自民党が複数の候補予定者を公認したことにより、統一地方選挙と相まって、潜在的な自民党支持者を掘り起こすことが可能となる、党勢拡大に格好の機会であると考え、自民党第三選挙区支部長の責任として、積極的に党勢拡大活動に励むことが必要と考えた。

 なお、党勢拡大活動に従事したことによる費用に対して、これ補填(ほてん)するために金員を支給することは許容されているところである。

(2) 党勢拡大活動の具体的内容について

 党の理念や政策に対して理解して賛同する党員や党友を増やすことが党勢拡大につながることは明らかであるが、党勢拡大活動はこれに限られるものではなく、広く党の理念や政策を多くの有権者に理解してもらうための広報活動も極めて重要なものとなる。検察官は、証人尋問において、受供与者に対し、被告人から党員の勧誘について話があったかと尋ねていることからすると、党員党友を増やすことだけが党勢拡大と考えているようであるが、それは大きな間違いである。

 また、党所属の政治家の後援会を結成し、発展させることも、その政治家の地盤培養(その意義については後述する。)に該当するとともに、党所属の政治家に対する強固な支持を得るという意味で党勢拡大にも該当することから、後援会活動も党勢拡大活動としての一面を有する(後援会活動についても後に述べる。)。

 さらに、街頭演説や個人集会などにおいて、党から公認を受け、自民党支部長として選任を受けた政治家が、有権者に対して、直接、党の理念や政策を訴え、その理解を得る活動も、党勢拡大活動に該当する。

 被告人および案里は、案里が自民党の公認を受け、第七支部の支部長に選任されたことから、第七支部長である案里の顔と名前を広く周知して知名度を上げるとともに、案里の人となり、政治的理念や政策を理解してもらうための諸活動を徹底的に行うことによって、自民党の理念や政策に理解を示す支持層を広げることにより、その党勢を拡大しようと考えた。

 その具体的な内容としては、案里自身が約3000カ所での街頭演説や個人集会を行って、自民党の公認を受けた案里が目指す政策を直接に訴えたほか、安倍自民党総裁(当時)の顔写真と「自民党広島県参議院選挙区第七支部長」という肩書を明記した案里の名前・顔写真を掲載し、「日本の明日を切り開く、自民党」と党のスローガンを大書したポスター(以下「2連ポスター」という。)の配布と貼付、「日本の未来に、花を咲かそう。」という政治的メッセージとともに、「自民党広島県参議院選挙区第七支部長」という肩書を明記した案里の名前・顔写真等を掲載した室内貼付用のポスター(以下「室内用ポスター」という。)の配布と貼付、自由民主号外の製作と配布、第七支部長である案里の推薦を取りつけるための企業・各種団体の訪問(以下「企業・団体回り」という。)等が挙げられる。なお、企業・団体による推薦は、当該企業・団体にとって、いずれの政党が示す政策が自らの利益にかなうかという観点からなされるものであり、もちろん、従業員や構成員の投票先を拘束するものではないから、これが選挙における投票の呼びかけとしての選挙運動に該当しないことは明らかである。

(3)党勢拡大活動に対する誤った評価について

 本件では、随所において、2連ポスターや室内用ポスター、自由民主号外等について、もっぱら案里の選挙運動のための配布物であるという評価に基づく証言や供述がされているが、そのような評価は、党勢拡大活動を全く理解していないものであり、明らかに誤っている。

 すなわち、2連ポスターや室内用ポスター、自由民主号外は、自由民主党が発刊している「参議院選挙戦の手引」(弁1号証143頁、159頁など)にもあるように、党からも党の広報活動としてこれらを積極的に行うことを求められて、自民党所属のどの政治家も製作して配布しているところであり、党勢拡大活動以外の何物でもない。

 2連ポスターおよび室内用ポスターには、前述のように、安倍自民党総裁の写真や「自民党広島県参議院選挙区第七支部長」という肩書を明記した案里の名前・顔写真が掲載されている上、自民党のスローガンや第七支部長としての案里の政治的メッセージが書かれているものであって、これらを配布して、国民の目に触れるように貼付することが自民党の広報活動に該当することは明らかである。

 ちなみに、案里を特集して3回にわたって発行された自由民主号外は、自由民主党本部が発行所として発行されたものであり、その体裁や内容についても、自民党本部による厳格なチェックがされている。そもそも、自由民主号外は、自民党の政治理念や政策、党所属の政治家の人となり等を知らしめるために自民党が公認した立候補予定者を特集して製作されるものであり、A氏についても製作されているように、特別に案里のみについて製作されたものではないし、案里を特集した自由民主号外の内容も、「日本の未来に、花を咲かそう。」、「すべての県民に寄り添う政治を。」とする政治的メッセージのほか、「河井あんりさんがめざす国づくり」と題して、災害復旧・対策、国土強靭化、自衛隊の明記などの憲法改正、大学の基礎研究費の拡充などの案里が目指す政策についても詳しく掲載されているのであり、正に、自民党の理念や政策を広く広報するための機関誌であって、これを製作・配布することは、党勢拡大活動そのものである。これを案里の選挙運動のための印刷物とすることは、党勢拡大活動に対する不当な評価としか言いようがない。

 言うまでもないところであるが、被告人らが配布するなどしたこれらの印刷物には、本参議院選挙において案里への投票等を呼び掛ける文言は一切記載されていないのであり、これらの配布自体を選挙運動と評価して、公選法により規制の対象としかねない発想は、政党活動の実態を無視するだけでなく、自民党に限らず、あらゆる政党の今後の政党活動や政治活動に対する不当な制約となるのであって、断じて許されるものではない。
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