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【詳報・克行被告第56回公判】最終弁論<8>元事務長への金員 処罰に合理的理由ない

2021/5/19 1:23

 第七支部等のスタッフとしての業務と同じものを担っていたと認識していたことが明らかである。

 さらに、検察官は、「元事務長男性らが第七支部の職員であるかどうかやその活動が被告人が主張するところの党勢拡大および地盤培養の意味を併せ持つかどうかを問わず、供与罪が成立する」としている。この論理によると、いかなる政党支部の職員も、職員としての給与を得たままでは、選挙運動期間中も含め、およそ一切、選挙運動に相当する業務(本件における検察官の主張によると、党勢拡大活動や地盤培養活動すらも、これに該当するとされてしまい、その外延は極めて曖昧である。)に従事できないことになるところ、それは、あまりに政党活動・政治活動の活動実態とかけ離れ、これまでそのような論理で政党支部のスタッフに対する買収罪を立件したことがない検察実務の方向性を大きく変更するものであるとともに、政党活動・政治活動との関係で、極めて危険かつ強権的な論理であると憂慮されることを指摘しておく。

ア 第七支部の業務に従事したこと

個別には後に述べるが、元事務長男性らは、第七支部の業務、すなわち、党勢拡大活動や地盤培養活動を含めた政治活動に従事したのであり、少なくとも、選挙運動のみに従事した選挙運動員ではないのであって、この点は、他の第七支部等のスタッフと何ら変わるところはない。またはそもそも、選挙区支部のスタッフは、日頃は選挙区支部長を補佐して、党員・党友の勧誘・募集活動、党や支部長である政治家の活動に関する広報活動、支持者を拡大するための企業・団体回り、政党支部の資金を集める活動、政党支部が主催する集会への動員活動、支部長である政治家のための秘書活動などの党勢拡大活動や地盤培養活動を含めた政治活動に従事している。そして、選挙区支部長が選挙に立候補することとなった場合には、これに加えて、党が公認・推薦した候補予定者の支持基盤を広げるための活動を行ったり、選挙運動期間中になれば、候補者への投票を呼び掛ける選挙運動にも従事することが実態となっており、それらは法律上禁じられるところではない。

実際、被告人が認識している範囲でも、第七支部のスタッフであるFらは、企業・団体、地方議員などのもとを回って、第七支部長である案里の推薦や支援を依頼し、案里の後援会入会申込書や2連ポスター、自由民主号外、選挙はがきなどを配布するといった「外回り」をして、党勢拡大活動や地盤培養活動を行っていたものである(第71回公判における被告人供述調書 51 頁以下)。

そして、選挙運動期間中には、第七支部の業務に加えて、有権者に対する投票の呼びかけも行っていた。この場合、法律上、選挙運動にも従事することを理由として、選挙区支部のスタッフに対する給与・報酬の支給が許されないということにはならない。選挙区支部のスタッフは、それまでと同様、政党支部としての業務・活動にも従事しながら(選挙運動期間中であっても確認団体である自民党の支部は政治活動を行うことができる。)、選挙運動の手伝いをしているにすぎないからである。実際にも、第七支部等のスタッフに対して、選挙運動期間中にも給与・報酬が支払われているところ、本件において、これらスタッフについて立件されていないことからしても、政党支部の職員らが選挙期間中に選挙運動に従事したとしても給与等を受領することが何ら違法でないことは検察官も認めるところであると思われる。

そうであるとすると、Fら第七支部等のスタッフが従事していた業務・活動あるいは選挙運動と何ら変わるところがない業務・活動あるいは選挙運動に従事した元事務長男性らに対する金員の支給だけを買収罪として処罰することは、何ら合理的な理由が認められるものではなく、およそ法律お

よび政治実務に反する処理と言わざるを得ない。

 なお、本件では、元事務長男性らについて、第七支部で継続して雇用する意図があったか、雇用に当たって契約書面を作成するなどしたか、社会保険に加入したかなどといった点が争点となり、弁護人としても、後述のとおり主張するところであるが、供与した現金が買収罪を構成するものか否かは、これらの点によって直截に左右されるものではなく、中核的な要素としては、あくまでも、当該者が第七支部のスタッフとして、第七支部の業務、すなわち政党活動に従事したか否かによって決せられるべきものと思料する。

イ 第七支部の肩書の名刺が作成・使用されていたこと

元事務長男性らについては、いずれも、第七支部において、「自民党広島県参議院選挙区第七支部長 河井あんり事務所」という所属先を明記した名刺(加えて、元事務長男性については「事務長」、元陣営の男性については「秘書」という肩書も付されていた。)を作成し、これを使用させていたものであり、対外的に第七支部、すなわち政党支部のスタッフとして活動することを公式に認めていたことが客観的にも明らかである。

ウ 第七支部の経理から支出されている、あるいは、支出することが予定されていたこと

 元陣営の男性および野々部に対する振り込みによる金員は、第七支部の経理から人件費として支出されているところ、この支給は、支給日が他の第七支部のスタッフと同一であること、所得税の源泉徴収がされていること、その細目について記載した給与明細書が第七支部名義で発行されていることなど、他の第七支部のスタッフに対する給与の支給態様と同じであり、客観的な状況からすれば、これが、第七支部のスタッフに対する給与として支払われたものであると認定するのが合理的である。

また、元陣営の男性および野々部に対して現金で支給した分並びに元事務長男性に対して現金で支給した分は、給与の前払いとして被告人のポケットマネーから支給されているが、これは、後に述べるような個別事情があったためであり、最終的には第七支部との間での精算が予定されていたものである。これらのことからすると、この支払いを給与・報酬の支給と別異に扱う合理的な理由は存しない。

エ 検察官の主張について

検察官は、元事務長男性らについて、雇用に当たって、契約書などの書面が作成されていないことを指摘するが、元来、被告人や案里の事務所では、秘書などの雇用に当たって書面を作成したことはなく、第七支部のスタッフとして雇用したRおよびSについてEが労働条件通知書を作成したことがむしろ例外的なものであったのであるから、書面の不作成をもって、元事務長男性らのスタッフ性を否定することはできない(第71回公判における被告人供述調書43頁)。ちなみに、多くの政治家の事務所で秘書として勤務した経験を有する元陣営の男性も、これまで雇用契約書を作成したことがない旨証言している(同人の証人尋問調書 76頁)。

また、検察官は、元事務長男性らについて社会保険に加入していないことを指摘する。確かに、元事務長男性らについて社会保険に加入していないのは事実であるが、被告人が公判廷で供述したように、数年前に国会議員の事務所で私設秘書について社会保険に加入させていない事実が報道されて問題となったことがあったほどであり、社会保険の加入の有無がスタッフ性について決定的な事由になるものとは思われない。

 被告人は、社会保険の加入手続について経理担当のスタッフに任せきりにしており、元事務長男性らに関しても、社会保険については然るべく行っていると考えていたのであるから、少なくとも、被告人の認識としては、元事務長男性らについても、他のスタッフと同じ状況にあったものというべきである(同被告人供述調書44頁以下)。

 さらに、検察官は、元事務長男性らについて本参議院選挙の投開票日の直後には第七支部から離れていることを指摘するが、これは、後に詳述するように、それぞれについて事情があったためであり、被告人としては、雇用当初は、第七支部のスタッフとして本参議院選挙後にも継続的に雇用する意図であったのであるから、この点もスタッフ性を否定する要素となるものではない。

(2)元事務長男性について
(ここまで 3318文字/記事全文 6886文字)

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