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【詳報・克行被告第56回公判】最終弁論<10>渡辺県議の応援の趣旨で現金

2021/5/19 1:26

3 渡辺典子県議に対する供与について

(1) 被告人は、渡辺の政治活動を応援する気持ちから現金を供与したものであること

 被告人が、5月29日に渡辺に現金を供与した事実は認めるが、その趣旨は、案里への投票および投票取りまとめの報酬ではなく、渡辺の政治活動を応援する気持ちからの寄付であった。

(2) 渡辺との関係について

 渡辺は、被告人と案里が発掘して県議にした唯一の政治家であり、被告人らとは大変近い関係にある。特に、案里は渡辺を妹のようにかわいがっており、互いの家を訪問しあったり、一緒に買い物に行くという親密な付き合いをしていた。

 被告人は、渡辺に国政にも挑戦してもらいたいという考えを持っており、平成28年の参議院選における2人目の公認候補として考えたこともあるなど、政治家として期待していた。そのため、被告人は、三矢会の幹部会員に渡辺の後援会長に就任してもらったほか、政治活動を応援する意図で、毎年、夏に氷代、冬に餅代として現金各10万円を渡しており、第三選挙区支部から渡辺が支部長を務める政党支部に対する寄付として政治資金収支報告書に計上していた。

 渡辺は、若い女性であり、実家が広島県内でも有名な企業のオーナーであるということに加えて、選出区である安佐北区内でも人口の多い高陽地域に居住しているという有利な条件を備えていながら、過去3回の県議選のいずれも最下位当選であることについて、被告人は、渡辺が後援会活動をしっかり行っていないことが原因であると思っていた。そのため、被告人や案里は、渡辺に会った際に、度々、地盤をしっかり固めておくようにと注意していた(第73回公判における被告人供述調書1頁以下)。

(3) 現金供与の状況について

 被告人は、5月29日に渡辺とともに会社会長に面会し、第七支部長の案里の室内用ポスターや後援会入会申込書などを会社会長に渡すなどの党勢拡大活動や地盤培養活動を行ったが、その面会後、統一地方選挙後に渡辺に会うのが初めてであったことから、当選の祝辞を伝えるとともに、渡辺が今回も最下位当選だったことに苦言を呈し、しった激励するつもりで、「高陽地域でもっと地盤固めしなきゃ駄目だったでしょう。」などと言った。なお、検察官は、この発言が案里のための高陽地区の地盤固めをすることを渡辺に求めたものとするようであるが、渡辺も明確にこれを否定しているのであり(第46回公判における同人の証人尋問調書 33頁)、同発言をもって供与した現金の趣旨が投票買収にあると認定することは不当である。

 その上で、被告人は、被告人らと親密な関係にあった渡辺に対し、県議選の当選祝いの趣旨に加えて、渡辺が地盤固めをする動機付けとなるよう、応援の趣旨で現金を供与した。

 この趣旨については、現金を受け取った渡辺も、時期が本参議院選挙との関係でまずいと思い、疑われると考えたことから、受け取りをちゅうちょしたところ、被告人から、「いつものだよ。大丈夫。」などと言われたために、いつも被告人から氷代などとして受けていた寄付と同趣旨ものであると認識した旨、一貫して述べているのであり、被告人の主張と整合する。

 検察官は、渡辺への現金供与が案里への投票および選挙運動の報酬の趣旨であったとする根拠の一つとして、「渡辺の弁解をもってしても、渡辺は、いったんは被告人から供与された現金の趣旨が本件選挙における投票および選挙運動の報酬の趣旨であると認識して受領を断ったこと」を挙げているが、渡辺は、公判廷において、被告人から依頼されたと考えたのは、「案里の後援会活動」であった旨を明確に証言した上で、「買収・被買収を疑われる危険性があるから、反射的に断った」(傍点は弁護人)旨を述べているのであって、検察官の根拠とするところは、そもそも、渡辺の証言を極めて恣意(しい)的かつ不正確に要約したものであって、極めて不公正な主張である。

 また、検察官は、他の地方議員らに対する現金の供与における目的と変わるところはないとの主張もしているが、被告人や案里と渡辺との特別な関係を殊更に捨象して、他の地方議員に対するものと同様に、これを案里の当選を得しめる目的で供与されたものと認定することは、あまりに形式的・皮相的な考えであって、失当である。そのほか検察官が論告において主張する点は、いずれも、抽象的、一般的な事情であって、そのような事情から、被告人による渡辺への現金供与が案里の当選を得しめる目的にあったと認定することはできない。

 なお、被告人は、渡辺に供与した金額について、20万円だったという記憶をもっている一方で、渡辺が公判廷で間違いなく10万円であった旨の証言をするのを聞いていて、記憶の正確さについて曖昧な状態になっている。したがって、渡辺に対する現金供与金額について明示的な主張をしていないが、渡辺の証言を積極的に否定するものではない。

(4) 領収証の発行について

 被告人は、渡辺に対するものに限らず、今回現金を供与した際に、その相手に領収証の発行を求めたことはないが、これは、最終的には、翌春に政治資金収支報告を行うまでに、領収証を出してもらうか否か、出してもらうとしてどこ宛のものを出してもらうかを相手とも相談して決めようと考えていたからであり、供与した現金が違法なものであることを隠ぺいするために、領収証の発行を求めなかったものではなかった。

 それは、本件以前に氷代、餅代を寄付した際に、領収証を発行することを頑強に拒んだ地方議員が複数いた経験から、相手との関係について言えば、特に、本参議院選挙では、県連が案里を応援しないように求めており、宏池会との関係が深い政治家もいるところ、被告人から現金の供与を受けたことが表に出ることを嫌う政治家もいるだろうと考えていたこともあり、また、政治団体への寄付ではなく、個人的に受け取っておいた方が、自由に使える小遣いのような使い勝手のいいお金とすることができるのではないかと思ったことによるものであり、これらの点も踏まえて、後に相手と相談することを考えていたことによる。

 また、被告人が寄付した現金は、第三選挙区支部からの支出とするか、被告人の個人的な支出とするか、三矢会からの支出にするかのいずれかのほか、被告人としては、第七支部の党勢拡大や案里の地盤培養のために支出したという整理も可能ではないかと考えていたことから、後で、どこから支出したことにするかを政治資金規正法にのっとって、経理上整理して、それに応じた領収証の宛先にしてもらうことを考えていた。

 渡辺は、被告人から供与された本件の現金について、領収証を発行した上で寄付として計上して政治資金収支報告書を提出しているところ、本件以前の被告人からの寄付に関する領収証についても、被告人の秘書がいないときは、収支報告書を提出するタイミングのときに、確認の連絡をした上で、日付などを合わせて領収証を発行することがあった旨の証言をしている。領収証の発行が後日に行われることがあることについては、伊藤昭善(以下「伊藤」という。)、木山、八軒幹夫(以下「八軒」という。)、佐藤、砂原も同旨の証言をしているところであるし(第36回公判における伊藤の証人尋問調書47頁以下、第55回公判における木山の証人尋問調書 20 頁および 47頁、第45回公判における八軒の証人尋問調書11頁以下、第57回公判における佐藤の証人尋問調書18頁、第49回公判における砂原の証人尋問調書38頁)また、平本英司および岡崎は、B参議院議員の政党支部から交付金が交付された件について、後日、同支部との間で領収証のやりとりをした旨の証言をしたのであり(第44回公判における平本英司の証人尋問調書28頁、第47回公判における岡崎の証人尋問調書 26頁)、金員のやりとりのその場で直ちに領収証をやりとりしないことが異例のことであり、何らかのやましさを体現するもののように構成する検察官の主張は、正に、机上の空論であって、政治家同士の金員の授受の現実についての無知を露呈しているものである。

 領収証の発行に関して、検察官は受供与者に対し、被告人から現金を供与された際に、「領収証の発行を求められたか。」、「領収証を発行したか。」と画一的な質問をして、正に、金太郎飴のような「領収証の発行は求められず、発行もしていない。」旨の証言を導いているが、その質問自体、渡辺らの証言を踏まえると、いかにも実務と乖離(かいり)した皮相的な発想であり、しかも、本件の捜査によって、政治資金収支報告書の作成の際に被告人と受供与者との間で領収証のやりとりをする機会を奪っておきながら、現金の供与時に領収証の発行を求めていない一事を殊更に主張するのは、被告人が現金供与について強く違法性を意識していたことを印象付けるためのものであることが明らかであり、不当である。
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