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【詳報・克行被告第56回公判】最終弁論<14>当選は付随する目的にすぎない

2021/5/19 2:42

 期日前投票を呼び掛ける内容を入れるように指示されたこと(同9頁)だけである。この指示のうち、「大変厳しい戦いとなっております。」との文言については、公示日から開始する電話作戦で用いる常套文句であり、党からの指示文書にも盛り込まれている文言を入れるというだけのものであり、何ら特別な指示ではない。また、公明党への配慮の文言についても友党に対する配慮として当然のことであるし、この指示に従って元石川県議が作成した案文についてLINEで確認を求められても、被告人は何らの反応すらしていないのであって(甲238号証添付資料13の元石川県議が(2)と記入した部分)、いかにも子細にわたって被告人が指示したかのような元石川県議の供述は明らかに誇張したものとなっている。さらに、期日前投票の呼びかけも、どの陣営も行っていることであって、被告人の指示は特別なものではない。

 また、重点的に電話をかける地域に関する指示に関するものとして証拠上認められるものは、甲238号証添付の資料13に元石川県議が(5)と記入した7月17日にやりとりされた1件のみであり、これを見ても、被告人からさらなる具体的な指示はなされていない。

 選挙はがきの取りまとめについて、元石川県議は、被告人から、一日でも早く発送するようにとの指示を受けたこと、選挙はがきを郵送した枚数等を表にして毎日提出するよう指示を受けたこと、被告人が入手した名簿に記載された者に選挙はがきを送るよう指示されたことなどを供述しているが(甲236号証)、実際に被告人が具体的に指示をしたことは、選挙はがきを早く発送するようにいう、当たり前の指示以外は、詩吟の会の関係者に選挙はがきを送るようにとの一点に限られるのであり(甲236号証添付の資料2参照)、選挙はがきの取りまとめに関して総括的に指揮をしていたものと評価することはできない。

 また、元石川県議は、回収された選挙はがきを迅速に発送するため、自らの判断で、あるいは、第三選挙区支部のスタッフであり、被告人の秘書であったcや野々部と相談して、選挙はがきのコピーを効率化する作業方法を決定しているのであり(甲236号証4 頁以下)、そのような選挙運動の実務的な点について被告人が関わった形跡は認められない。

 そのほか、甲236号証に添付されている被告人と元石川県議のLINEのやり取りを見ても、元石川県議からの質問に対して被告人は、ほとんど返答すらしていないことが明らかであるから、被告人が選挙はがきの取りまとめについて報告は求めていたものの、実質的には、元石川県議に任せきりにしていたことが認められる。

 なお、検察官が指摘する元石川県議供述のうち、「電話作戦は、選挙区内の有権者に電話をかけて投票を呼びかけるものであった。」、「名簿は、5名連記を用いた。」、「選挙はがきは、選挙事務所が選挙期間中に郵送するものであり、案里への投票を呼びかけるものであった。」、「案里の陣営では、5名連記に書かれている入会者にも選挙はがきを送ることとされ、私もその対応を担った。」、「案里陣営では、少なくとも5万数千枚の選挙はがきを発送した。」との各供述は、いずれも、元石川県議自身の行った選挙運動の実態を述べるものにすぎず、被告人が総括主宰者であることを基礎づける事実たり得ないことも指摘しておく。

(7) スタッフへの指示、スタッフからの報告について

 スタッフの証言・供述の中には、被告人がスタッフに対して事細かに報告を求めて、指示をしてきたとするものがある。特に、被告人が公示日前からスタッフに対して活動状況を業務日報に記載して報告することを求めたことが強調されており、検察官は、この点をとらえて、被告人が案里の選挙運動を取り仕切っていたとする根拠の一つとしているようである。

 しかし、被告人がスタッフに業務日報を作成させて報告させていたのは、被告人や案里が日報を見ているということで、スタッフに実績報告をさせることによって相互に張り合いを持たせたり、緊張感を持たせるためであった。選挙のときに限らず、被告人の事務所では、スタッフが業務日報を作成して、東京にいることが多い被告人に報告するのが慣例になっていたところ、案里の政治活動や選挙運動に関する業務日報についても、その慣例がそのまま引き続いていたために必要以上に詳しいものが多く、しかも、スマホに送られてくることもあったため、眼の疾患をかかえる被告人がその全てに目を通すことはできなかったのが実情であった。また、被告人は、案里が日報を見ていたかどうかは正確には分からないものの、案里は街頭演説などでかなり忙しくしていたので、ほとんど見ていなかったのではないかと認識していた。

 被告人は、ときには、業務日報を見て、気になった点について指示をしたり、状況を尋ねたりすることがあったが、全てを子細に検討した上で、系統立てて指示をするというものではなく、気になった点を思い付きのように指示をするというものが実態であり、その指示に対する反応もないままのものも多かったことからしても、業務日報によってスタッフの業務全般を把握して、案里の選挙運動を取り仕切っていたという評価をすることは適切ではない。

 また、スタッフ間の情報共有の目的で、LINEのグループを作成し、グループLINEで被告人がスタッフに指示をしたこともあったが、これも同様に、気になった点を思い付きのように指示をするというものが実態であり、その指示に対する反応もないままのものも多かったことは業務日報と同様である。

 電話作戦や選挙はがきの取りまとめを担当した元石川県議の供述などスタッフの供述からは、被告人が盛んに求めたのは状況の報告であることが明らかである。これは、些細なことでも知りたがるという性格(第30回公判における案里の被告人質問調書(1)39頁)が影響したものであり、報告を受けた上で、被告人が案里の選挙運動全般について総括的に指揮をしたという具体的な証拠はなく、単に思いつきで、更に状況を尋ねたり、意見を言う程度のものであったのであって、これをもって、選挙運動の取り仕切り役と認定することはできない。

(8) 経理について

検察官は、論告において、被告人が案里の選挙運動を取り仕切っていたことの根拠の一つとして、第七支部で経理担当をしていたRが、(1)5月から本参議院選挙が終わる7月まで、少なくとも2週間に1回、被告人に会計報告を行った、(2)Gからの引き継ぎのとおり、金額の大きいものや大事な支払いについては、事前に被告人の了承を得てから支払うようにした、(3)支払いに必要な資金が不足した場合には、被告人に話をして、被告人からお金をもらい、もらったお金については被告人の支部に対する立て替え金として処理した。被告人から業者に対する支払いの順序を指示されたこともあった、(4)被告人の指示で、毎日、被告人に第七支部名義の各口座の通帳の写しを見せており、被告人は、第七支部の資金の状況も把握していた、(5)案里から、第七支部の会計や選挙会計について報告を求められたことはなく、案里に対し資金の工面の相談をしたこともなかった、(6)案里の選挙運動費用収支報告書の提出に当たり、被告人にのみ、その内容や選挙運動費用の収入について説明し、案里には説明を行わなかった旨供述していることを挙げている。

 Rは、当公判廷において、被告人が経理について詳細な報告を求めてきたことや第七支部の資金状況を把握し、第七支部の資金繰りについても指示をした旨の証言を延々と行っているが、これは、多忙な案里に代って、政党支部長の経験が長い被告人が、政党支部の資金管理を適切に行うという観点からのものであり、むしろ、政党支部長として当然のことをしていたにすぎないものである。

 経理面においても、案里の選挙運動を取り仕切っていたとするためには、どのような選挙運動に、いかなる費用をどの程度支出するかについて差配することが必要と考えられるが、Rの証言その他の証拠によっても、被告人が案里の選挙運動の費用について決定していたとする事実は認められないのであって、単に、支出の状況について報告を受けて、第七支部の資金管理上の観点から指示をしていたにすぎない被告人が経理面で案里の選挙運動を取り仕切っていたとは到底認められない。

 なお、Rが被告人に報告する際に用いていたという資料の中には、公示日前に第七支部が行っていた自由民主号外の配布など党勢拡大活動に関する費用が計上されているなど、党勢拡大活動のための費用と選挙運動費用の説明とが混同されていて、R自身がその区別を正確に理解していたものとは思われない。また、Rは、金額の大きいものや大事な支払いについては、事前に被告人の了承を得てから支払うようにした旨の証言をしながら、その具体的な例について何一つ説明していないのであって、ほとんどが人件費、交通費、通信費、光熱費など義務的経費にとどまる選挙運動費用について、そのようにして被告人の了承を得てから支出することは想定されないことからしても、Rの証言は全く信用できない。

 また、選挙運動費用収支報告書の作成についても、被告人は、Rとcに任せきりにしており、案里に代って、その提出直前にざっと確認したにとどまるものであるし、選挙運動費用収支報告書の内容自体、大半が義務的経費の支出にとどまるものを報告するものであり、被告人がこれを確認したとしても、被告人が経理面で案里の選挙運動を取り仕切っていたと言えるものではないことは明らかである。

第9 情状

1 案里の当選を得ることが主たる目的ではなかったこと
(ここまで 3951文字/記事全文 8784文字)

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