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【詳報・克行被告第56回公判】最終弁論<17>選挙区内外で地盤構築

2021/5/19 3:03

 その政治家との関係がより一層深くなり、被告人自身の政治活動が円滑に進むことを期待した面もあった。

 なお、今回、被告人が陣中見舞い等を渡した政治家の中には、それまで渡したことがない政治家もいたが、後に述べるとおり、被告人は、自身の政治基盤を固めたいという考えを持ち、自分との関係が薄かったり、関係がよくない政治家との関係を改善したいと考えており、そのため、そのような政治家についても、統一地方選挙の機会に陣中見舞い等を渡すことによって、相手の心証を良くし、その結果、関係の改善が図られ、今後の自分の広島県内での政治基盤を固めることになるという期待があった。特に、選挙の際に陣中見舞い等を渡すということは、政治家同士でよく行われていることから、普通のときであれば現金を渡す名分が立たないような相手に対しても、抵抗なく現金を渡すことができ、相手にも受け取ってもらえると考えたものであり、そのような考え自体、何ら不自然不合理なものではない。

 このように、被告人が陣中見舞い等を渡したのは、正に、陣中見舞い等の意義に沿った目的があったのであるから、多くの受供与者が述べるような、案里への投票及び投票取りまとめを依頼する報酬であることを糊塗し、受供与者が受け取りやすくするための全くの名目にすぎないというものではない。

イ被告人の政治基盤固め

 @ 若手政治家との関係構築による政治基盤固め

 第5の1で述べたとおり、被告人は、長い間、広島県内の政界において、仲間となる国会議員、県議、市議らが少ないという孤独感や、県内の有力な政治勢力から疎まれているという疎外感を感じ続けており、自身の県内政界での政治的基盤が脆弱であることに対して危惧感や不安感を抱いていたところ、第4の3で述べたような状況で決定された案里の公認により、被告人と広島県連、D会等との関係はより一層険悪なものとなることが予想され、それによって、被告人の広島県内での政治基盤が更に脆弱なものになってしまうのではないかという危惧感や不安感が増大した。また、それまで抱いていた孤独感や疎外感をますます強く感じるようになった。

 そのような中で、被告人は、必ずしも盤石とは言えない自身の選挙のことも考えると、かねがね、県議、市議とも近い関係を築きたいと考えており、特に、これからの広島での政治は若い世代の地方議員に担ってもらいたいという思いをもち、被告人が実現したいと考えていた広島県連の改革なども含めた政治の実現について、若手の政治家に被告人の応援団になってほしいと思っていた。

 そこで、少しでも孤独感、疎外感を解消し、自身の選挙や政策の実現に力を貸してくれる若手の政治家を仲間にするために、政治信条が近く、また、手あかのついていない若手の政治家に対して、いわば「先行投資」をしようという考えに至った。

 このようなことを考えて現金を供与した地方議員は、八軒、木山、豊島、三宅、沖宗、平本英司、石橋、佐藤、胡子らであった。

 被告人がこれらの若手の地方議員について現金を供与した具体的な目的・理由については、それぞれの地方議員との関係も含めて被告人が公判廷で詳細に供述したとおりであり(第73回公判における被告人供述調書83頁以下、第74回公判における被告人供述調書1頁以下)、その内容は十分に合理的かつ自然なものであるし、これに対して検察官からも有効な反証はなされていない。

 特に、豊島、三宅、石橋に対しては、今回の現金供与以外にも、同人らの政治活動を応援する趣旨をこめて、いわゆる氷代、餅代として何度も現金を供与しており、また、被告人が石橋や豊島ら若手市議を集めた会合を開いて意見交換していた事実からも、被告人が若手市議との関係を深めたいという考えを抱いていたことは客観的にも明らかである。受供与者の一人である石橋は、被告人が主催していた若手市議との会合について、「やはり国の貴重な意見が聞けるので、決して二の足を踏んで行ったことはないです。ただ、何分にも私が余り外で飲んだり食べたりはしないものですから、だから、飲み会というのは、根本的に、克行さんに限らず、ちょっと夜は苦手な部分がありますけど、でも、その会合、自体はいろいろ有意義で、仲のいい面々だったので、決して後ろ向きではありません。」と証言し(第47回公判における同人の証人尋問調書26頁)、また、被告人からの現金について、「私も地元の市議会議員選挙をちょっと恐縮ですけれども好成績で3期目の当選を果たさせていただいたということで、着実に地元で力をつけてきている議員の1人でもありますので、そういった意味でも、手なずけておくというか、支配下に置いておくというような、そういう意味合いが込められているんではないかとは感じました。」と証言している(同証人尋問調書9頁)のであって、その証言内容は、被告人の意図に通じるものであり、被告人の主張が決して荒唐無稽なものではないことが明らかである。

 政治家が政治家に対して現金を供与することに、供与する側にとって地盤固めの意味があることは、木戸が、被告人からの氷代や餅代に関して、「克行氏は、第三選挙区の地盤固め並びに党勢拡大のためにくれていたんだと思います。」と証言していることからも明らかである(第51回公判における同人の証人尋問調書3頁)、同様の証言は、児玉浩もしているところである(第42回公判における同人の証人尋問調書38頁)。

 A 選挙区外における新たな地盤構築

 杉原幸一郎尾道市議(以下「杉原」という。)及び土井呉市議については、尾道地域、呉地域での政治基盤固めのための橋頭保となってもらいたいという考えがあった(第74回公判における被告人供述調書59頁以下)。

 被告人が杉原及び土井について現金を供与した具体的な目的・理由については、被告人が公判廷で詳細に供述したとおりであり、造船関係の会社が多い尾道、防衛産業関連の会社が多い呉を地盤とする地方議員であり、政治家としても評価していた杉原及び土井と親しい関係を築くことができれば、被告人が備後地域における政治基盤固めに力を貸してもらうことができるのではないかという期待をもっていたというものであって、その内容は十分に合理的かつ自然なものである。

 V 広島三区における政治基盤固め

 被告人は、災害対策などの地元の諸課題に懸命に取り組んでいたにもかかわらず、直近3回の衆議院総選挙において、自己の獲得票数が数千票単位で連続して減少し続けたことに危機感を感じており、特に、前回の選挙では、いわゆる落下傘候補に約2万1000票差まで詰め寄られたことに衝撃を覚えた。そして、案里の公認を巡る問題が原因となって、広島県連やD会との関係がより悪化すれば、次の総選挙は本当に厳しくなるという危機感を感じるようになっていたことから(第74回公判における被告人の供述調書33頁)、被告人の選挙区である広島三区を地盤とする政治家に、被告人の衆議院選挙の際に強力な支援をしてもらいたいという思いを持つようになった。

 このようなことを考えて現金を供与した地方議員は、宮本裕之、矢立、今田、水戸真悟、先川和幸、吉本新人、児玉浩、木戸、伊藤、小坂真治であった。

 被告人は、このうち、伊藤、木戸、児玉浩、宮本新八に対しては、これまでにも氷代や餅代を渡していたが、そこには、被告人が相手の政治家の政治活動を応援する気持ちとともに、被告人の選挙で応援してもらいたいという気持ちも込められていた。

 被告人がこれらの地方議員について現金を供与した具体的な目的・理由については、それぞれの地方議員との関係も合めて被告人が公判廷で詳細に供述したとおりであり(第74回公判における被告人供述調書43頁以下)、その内容は十分に合理的かつ自然なものであるし、これに対して検察官からも有効な反証はなされていない。
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