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【詳報・克行被告第56回公判】最終弁論<19>買収で案里支援になった者、存在しない

2021/5/19 3:06

ウ 元公設秘書を事務所に誘った状況について

 被告人は、元公設秘書に被告人の事務所に事務所長として入ってもらい、不在中の自分に代わって事務所の取りまとめをしたり、経験が少ない秘書の教育・指導をしてもらえればありがたいと考えた。また、元代議士の後援会を盤石なものにした経験を活かして、三矢会及びやよい会、あんり・未来ネットワークを拡大強化してもらったり、亀井元金融担当相の秘書時代に培った人脈を活かして県内の企業や各種団体などにも支援を呼び掛けて政治資金集めにも力を貸してもらえるのではないかと考えるようになった。

 被告人は、亀井元金融担当相が政界を引退するという話が出始めた頃から、元公設秘書に事務所への誘いかけをするようになった。具体的には、被告人の秘書のUが元参院議員の事務所長だったこともあり、Uを通じて、元公設秘書に事務所に入ってほしいという誘いをかけたほか、被告人自身、業界団体の会合で会った際に、何度も、「うちにきてくれませんか。」、「元公設秘書さん、待ってますよ。」などと誘いかけたが、被告人は、元公設秘書がこれに対して前向きに考えてくれているという認識をもっていた。

 被告人は、5月31日に被告人の事務所で元公設秘書と面会し、このときに現金(供与した金額については、第8の8で述べたとおり。)を供与したが、被告人は、この面会の際にも、事務所に事務所長として入って被告人を支えてもらいたい、事務所のスタッフも元公設秘書が入ってくれることを期待しているといった話をした。これに対して、元公設秘書も、亀井元金融担当相が会長を務める警備会社で仕事をしているので、事務所への常駐は難しいとか、亀井元金融担当相の許可が必要という話をしていたものの、被告人からの誘いを拒むという態度ではなく、むしろ、被告人としては、元公設秘書が被告人の事務所に入る道を探っているという印象を受けた。

 本参議院選挙後、被告人は、これからは来るべき総選挙に備えて被告人の事務所の体制を強化しなければならないと考え、9月上旬頃、広島市内の飲食店「1」で元公設秘書と面会し、それまでよりも強く、事務所入りを誘いかけた。

 被告人は、その際の元公設秘書の反応について好感触をもったことから、同月21日、被告人の事務所で元公設秘書と面会した。被告人は、その頃には、常駐かどうかはともかくとして、元公設秘書が被告人の事務所に入ってくれるものと確信していたことから、近いうちに、事務所の秘書に対し、いわゆる「秘書道」について話をしてほしいという依頼をするとともに、経理担当のGとともに、顧問として働いてもらう場合の顧問料の額や社会保険の加入など具体的な条件についても話をした。さらに、被告人から亀井元金融担当相に対して、元公設秘書に事務所に入ってもらうことについて挨拶をしようかという話までした。

 このように、被告人は、かねてから、元公設秘書について、事務所に入って中核となってもらいたいという切実な希望を抱いており、300万円という金額も元公設秘書のようなベテランで有能な秘書を確保するためには必要なものと考えていたし、元公設秘書に事務所に入ってもらい、県内の企業などとつながりを深くしてもらえれば、パーティー券の購入や政治献金も大いに期待できたことから、300万円もすぐに取り戻せるという考えでいた。

エ 元公設秘書の証言について

 元公設秘書は、5月31日と7月3日に被告人から供与された現金について、本参議院選挙における案里の支援依頼の趣旨であると思った旨の証言をしている(同証人尋問調書11頁、24頁)が、他方で、検察官の主尋問に対して、「一時的にちょっと誘いを受けたことがあるんですけれども、河井事務所で指導していただけないかという顧問の要請はありました。だから、後になって思うことですが、そんなこともあったのかな、7月3日の受領はそんなような金もあったのかなというふうには思いましたけれども」「それは額がやはりちょっと大きかったものですから、200万という形のものがですね。全体的には300万ですけれども、そういう額が大きかったから、そのように思いました。」と証言し(同証人尋問調書24頁以下)、弁護人の反対尋問に対しても、「2回目のときに、200という金額が入ってるときに、ちょっと異常だなというような気もしましたんで、後になって、私も、先ほど弁護士さんもおっしゃったように、5月、6月の話が頭の中にあり、話をしたような記憶があったもんですから、それの話が、それの中を出しておられたのかなという気がしたということです。」と証言している(同証人尋問調書42頁)。

 この証言からも明らかなとおり、元公設秘書は、被告人から供与された現金が、投票買収の金額としては異常に高額であるという思いから、被告人から事務所の顧問として誘われていたことと関連する金員であるという認識を有していたことが認められるのであって、その認識は、案里の当選を得しめる目的もあったものの、主たる目的は、元公設秘書を事務所に誘うための支度金として渡したとする被告人の目的と合致するものである。

 また、元公設秘書は、9月21日に被告人の事務所で被告人と面会した際の状況について、「こういう封筒を持ってきてるんで、先生、お返ししなきゃいかんでしょうという話を、お返ししますという話はしたと思います。」「それは、21日のときに、今の顧問の話をした際に、お互いの、私の思いですけども、私は顧問料として、じゃ、これ預かるんだなと。」「要するに、そのとき、まだ顧問を受ける、受けないの話ですからね。そのときに、ちょうど300万ある、先ほど20万、30万というような話が出てましたから、多分それで預けておきますというような先生も、私の思いです。」などと証言している(同証人尋問調書48頁以下)。同証言から明らかなことは、元公設秘書は、少なくとも9月21日の時点においては、被告人から供与された現金の趣旨について、本参議院選挙における案里の支援の趣旨とする認識は皆無になっており、もっぱら、被告人の事務所への誘いに関する金員であるとの認識しか有していなかったことである。このことは、さらに、令和2年5月に、元公設秘書が被告人に電話をかけ、被告人が供与した300万円について、「私が顧問料として預かった例のお金」という表現を用いて、その返金を申し出た事実(同証人尋問調書49頁)からも優に認定できるところである。

 ちなみに、元公設秘書は、検察官の主尋問に対しては、5月31日に被告人と面会した際には、事務所へのスカウトの話はなく、選挙以外の話はなかった旨の証言をしたが(同証人尋問調書26頁)、弁護人の反対尋問に対しては、被告人から事務所に誘われた時期について、「うちの会長と会った後にそんな話があったというふうに。あったんじゃないかという記憶でございます。」、「それが5月の時点か6月のような話を、頭の中にあったように記憶しておるんですけれども、定かではございません。」、「(5月か6月にあった話の内容について)私の記憶では、私が優秀だとか、こうとかいうことで、そんなことを言うてるつもりはないんですけれども、選挙をずっと13回も携わってきたということがございますので、うちにはそういう秘書がなかなかいないんだよね。元公設秘書に来てもらったらいいよねということのお誘いを頂いたという趣旨でございます。」(同証人尋問調書31頁以下)と証言した。前述のとおり、被告人は、5月31日に元公設秘書と面会した際に、事務所への誘いかけの話をしたと供述しているところ、元公設秘書の言う「5月か6月」の被告人の事務所での面会は、この5月31日以外にはないのであるから、結局、元公設秘書は、被告人から現金を供与された5月31日に事務所に誘われたのであり、5月31日に被告人と面会した際には、事務所へのスカウトの話はなかったという前提を欠くことになるのであるから、供与された現金は本参議院選挙における案里の支援依頼の趣旨であると思った旨の証言自体、信用性に欠けるものと言わざるを得ない。

 なお、元公設秘書は、7月3日の200万円の趣旨について、本参議院選挙における案里の支援依頼と事務所へのスカウトのいずれの趣旨がメインと思っていたかという検察官からの質問に対し、「受領時ですから、受領時のこと、具体的にそういう旨がなかったわけですから、具体的には選挙の支援の依頼だろうというふうに私は思いました。」と証言している(同証人尋問調書26頁)。前述のとおり、被告人から供与された現金の趣旨について、本参議院選挙における案里の支援の趣旨とする認識は皆無になっており、もっぱら、被告人の事務所への誘いに関する金員であるとの認識しか有していなかったことからすると、そもそも、現金受領時の元公設秘書の認識を問う質問自体、意味がないものであるが、元公設秘書自身、5月か6月には事務所への誘いかけの話を被告人からされていることを認めていることからすると、同証言についても、信用性に欠け、この証言をもって被告人の目的の主従を認定できるものではないことを念のため指摘しておく。

 これまで述べたとおり、被告人が元公設秘書に対して300万円を供与したのは、元公設秘書を事務所にスタッフとして迎えるための支度金としての趣旨が主たるものであるところ、検察官は論告において、元公設秘書への供与金額に関する主張はしているものの、この被告人の主たる目的について極めておざなりな反論しかしていないし、当然のことながら、被告人の主張を弾劾するに足りる証拠も提出できていない。

 すなわち、検察官は、2回の現金供与時、被告人から第三選挙区支部の秘書や顧問の就任を依頼されていなかったとする元公設秘書の証言のみを理由として、被告人が供与した現金の趣旨に支度金の趣旨が含まれていなかったと主張するようであるが、これは、既に述べたとおり、反対尋問の結果、信用性を欠くことが明らかとなった元公設秘書の証言のみに依拠する主張であり、失当であるばかりか、既に破綻している主張に拘泥していることを示すものであり、公益の代表者としての検察官の立場にも悖るものである。

(7)元石川県議に対する供与について

 本参議院選挙の公示日が近くになったものの、第七支部では、電話作戦と選挙はがきの集計等を取りまとめる者がいないという状況にあったため、野々部の知人の元石川県議であり、統一地方選挙で石川県議選に立候補して落選したという元石川県議が担当することとなった。

 被告人は、公示日の間近であり多忙を極めていたために、元石川県議の待遇についてはほとんど野々部に任せきりにしており、同人の提案に基づき、50万円を報酬として支払うことに異存はないという返答をした上で、7月3日に10万円を被告人が手渡しで支払い、さらに、被告人の指示により、7月31日に所得税を引いた38万3490円を振込みで、8月1日に10万円を振込みで支払った。

 元石川県議が担当した業務内容は、選挙運動である電話作戦と選挙はがきの取りまとめであり、選挙人に直接働きかける行為を行うものではなかったことから、元石川県議は公職選挙法197条の2に規定される「選挙運動のために使用する事務員」に該当するものと解される。

 したがって、元石川県議に対しては、所定の手統を踏めば、公職選挙法の定めるところに従って、所定の範囲内で報酬(1日につき1万円以内)及び実費(弁当料1日につき3000円、茶菓料1日につき500円)を支給することが可能であったが、被告人はかかる事務的な手続を第七支部のスタッフに任せきりにしていたことから、法違反の状態が生じたことの認識はほとんどなかったものである。
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