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アスリートの「うつ」 理解深まり告白できる社会に 元サンフレッチェ広島選手・森崎和幸さん【歩く・聞く・考える】

2021/6/15 22:31

元サンフレッチェ広島選手・森崎和幸さん

 プロテニスの大坂なおみ選手が「うつ」に悩まされてきたと告白し、全仏オープンを棄権して大きな話題になった。トップアスリートが心の不調を打ち明けることは珍しいものの、悩んでいる割合は一般の人よりもむしろ高いという調査結果がある。サッカーJリーグのサンフレッチェ広島で活躍し、引退後に著書「うつ白」(TAC出版)で自らの病気の経験を明らかにした森崎和幸さん(40)に心の健康の大切さについて聞いた。(論説委員・吉村時彦、写真・大川万優)

 ―心の不調に長年苦しめられたそうですね。

 最初の発症は2003年でした。目がぼやけるというか、ボールとの距離感が取りにくくなったんです。変だな、おかしいなと思ううちに体に力が入らなくなって…。うつのことは知っていましたが、自分がそうだとは思わなかったです。

 ―どう対応をしたのですか。

 けがなら治せばいいのですが不調の原因がなかなか分からなかった。チームから離れられないという思いと、体調がどんどん悪化していく現実との間で苦しみました。最悪の時はまったく身体が動かなくなり、暗い部屋に一日中閉じこもってベッドに横たわることしかできませんでした。体調には波があり、回復と再発を繰り返しました。

 ―うつの告白には大変な勇気がいるのでしょうね。

 現役時代には告白できませんでした。弱みを見せたくはないし、試合に出られないと契約を解除されることだってあり得ます。ただ、私の場合は運が良かった。チームが待ってくれ、帰る場所があったからです。言いたくても言えない状況はプロスポーツの世界には間違いなくあります。アスリートにうつが多いというのもうなずけます。

 ―大坂選手の全仏での記者会見拒否や棄権をどう見ますか。

 うつの時は思考力が低下して会話が頭に入らなくなります。だから会見や取材を受けることが非常にきつい。記者の質問にきちんと答えられなくなることが申し訳なく心苦しいんです。

 ―取材が苦手だから拒否したわけではないと?

 体調が悪い中でプレーし、思うように動けないことでさらに気持ちが沈みます。会見拒否宣言よりも前に心の不調を明らかにしておけば波紋はそこまで広がらなかったかもしれません。だけど、うつは簡単には口に出せない。そうした状況を理解してあげてほしいと思います。

 ―周囲の理解やサポートも重要なんでしょうね。

 この病気で最も難しいのは休む時より復帰する時なんです。とても勇気がいる。タイミングは自分で決めるしかないのですが、背中を押してくれる存在が必要です。私の場合は妻にずいぶん助けられました。自分の経験を生かし、同じ病気に苦しむアスリートの役に立ちたいと考えたのもそういう理由です。

 ―だから「うつ白」を出版したんですね。

 はい。この病気は決して治らないものではない。再発しても病気と共存していけばいいと思います。病気が理解され、受け入れられる土壌がもっと社会に広がってほしい。著書を通じて、その思いに共感してもらえればと考えました。最近は悩みの相談相手になるメンター(助言者)という存在が注目されるようになっています。私も取り組んでみたいですね。

 ―メンターは企業活動でも重要視されていますね。うつを経験したアスリートによる講演会も海外では広がっています。

 メンターは海外のクラブでは増えていますが、日本はまだ遅れています。病気への向き合い方や周囲の接し方などは手探りです。うつは珍しくない。かかっても「捻挫で少し休む」くらいの受け止めになれば世の中も変わってくると思います。

 ―東京五輪も目前です。

 アスリートは五輪に心血を注いでいます。開催か中止か決まらない中で精神状態はとても不安定なはずです。五輪の実現を願ってはいますが、これまで以上にこの夏以降のケアには注意をしてほしいとも感じます。

 ■取材を終えて

 引退あいさつも丸暗記して臨むような生真面目な人だ。うつからの復帰時にサポーターが掲げた「何度でも言うよ、カズおかえり」という横断幕を忘れないという。自分を待っていてくれたことに感謝し、恩返ししたいという誠実さに頭が下がる。

 もりさき・かずゆき 広島市生まれ。広島県立吉田高3年の99年にサンフレッチェ広島初の高校生Jリーガーとしてデビュー。00年にJリーグ新人王。サンフレで3度のJ1優勝に貢献した。18年引退。現在はクラブと企業、サポーターなどの橋渡し役となるクラブ・リレーションズ・マネージャーを務める。19年に出版した「うつ白」は双子の弟である元Jリーガーの浩司さんとの共著。


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