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諦めぬ心、サックスの音色に込めて【ひと まち】

2021/11/9 23:18
学生が企画してくれたリハーサル。波山さん(前列右)たちに囲まれ、吉田さん(同中)はとびきりの笑顔を見せた=6日、広島市西区(撮影・大川万優)

学生が企画してくれたリハーサル。波山さん(前列右)たちに囲まれ、吉田さん(同中)はとびきりの笑顔を見せた=6日、広島市西区(撮影・大川万優)

 「夢ってありますか」。難病を患う吉田正男さん(45)=広島市東区=が、なじみの訪問看護師から尋ねられたのは今年4月だった。広島国際大(東広島市)が、患者の夢をかなえるプロジェクトを始めるのだという。吉田さんは即答していた。「あの人とコンサートを開きたい!」。12日、その夢が実現する。

 吉田さんの病気は「脊髄小脳変性症」という。小脳などの神経が変質し、体がうまく動かせなくなる。足が突っ張ったり、会話中に舌がもつれたり。症状はじわりじわりと進む。それでも吉田さんを支えてきたものがある。サックスだ。

 少年時代から、大の音楽好き。中学で吹奏楽に夢中になった。ホルンやトランペットを経て高校で始めたのがサックス。花形楽器に似合う体になりたくて、90キロあった体重を30キロ減量するほど、とりこになった。

 大人になっても情熱は衰えなかった。広島市の法人で事務を担う傍ら、市民楽団の活動に励んだ。バンドでも活躍。各地でライブを重ねた。

 異変を覚えたのは20代半ばを過ぎたころだった。演奏中、舌が思うように動かない。体のバランスを崩し、転ぶことも増えた。

 もしかして―。思い当たることがあった。10歳違いの長兄、今は亡き父親も同じ病を患っていたからだ。

 脊髄小脳変性症は3分の1が遺伝性とされる。吉田さんはしばらく病院に行かなかった。「認めるのが怖かったのかも」。診断を受けたのが29歳。症状は少しずつ進んだ。「仲間の迷惑になる」。40歳になる少し前、市民楽団を離れた。同じころ、車いすが必要に。昨春、職場も退いた。

 それでも音楽だけは諦めなかった。毎日、地道にサックスを吹く。週1回は介護タクシーでレッスンにも通う。そんな時、広島国際大医療福祉学科のプロジェクトに出合ったのだ。

 どうしても共演したい人がいた。サックス奏者の波山美晴さん(53)=西区。吉田さんは中学3年の時に訪れた演奏会で、その深い音色に衝撃を受けたのだという。以来、ライブに通い詰め、いつしか親しく話す仲に。「私でいいなら」。波山さんのその一言で夢は動き始めた。

 「吉田さんに最高の記念日を」。プロジェクトの学生たちは準備に余念がない。吉田さんも毎日2時間練習する。

 当日、伝えたいことがある。患者仲間、とりわけ廿日市市の病院で暮らす長兄へ。病気を恨みたくなる日もある。でも自分を見限るまい。一緒に頑張ろう―。そんな思いを音色に乗せるつもりだ。(田中美千子)

    ♪♪♪

 コンサートは12日午後1時、コジマホールディングス西区民文化センターで。無料。オンライン配信もある。全席自由。予約可。r-disease@ms.hirokoku-u.ac.jp

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