マツダ100年 車づくりと地域

【マツダ100年 車づくりと地域】広島から未来へ

特集・関連記事2020/8/12 20:57
診療所での受診を終え、送迎車両に乗り込む大上さん(右)。NPO法人のサービスが貴重な移動手段となっている

診療所での受診を終え、送迎車両に乗り込む大上さん(右)。NPO法人のサービスが貴重な移動手段となっている

 「100年に一度」と言われる変革の波が自動車業界に押し寄せている。インターネットとの接続や電動化…。各社ともCASE(ケース)と呼ばれる次世代技術の開発を避けて通れない。誕生から1世紀の節目を迎えたマツダも、独自の視点で乗り越えようとしている。グローバル企業として成長を期す傍らで、中山間地域での移動支援の実験など広島に根付いた企業らしい試みも進める。その先に、目指す未来の車社会がある。

 ■相乗り支援

 ▽「地元」過疎地で成長探る 三次市作木で予約システムやデータ収集

 江の川に沿って深い谷が連なる三次市作木町。島根県境に広がる人口約1250人の地域を、マツダのスポーツタイプ多目的車(SUV)CX―5が駆ける。地元のNPO法人元気むらさくぎが運営する高齢者向け移動サービスの車だ。

 7月末、町の中心部にある診療所の前に赤いCX―5が止まった。後席に乗り込んだのは、受診を終えた大上良子さん(85)。自宅からバス停まで遠い上、近くにタクシー会社もなく、毎月の通院でこのサービスを頼りにする。「1人暮らしだから本当に助かる」。運転するボランティアの住民と世間話を楽しみ、自宅の玄関先で車を降りた。

 作木町の高齢化率は5割を超える。人口も旧村が市に合併した2004年から700人余り減った。「外出が難しくなり古里を離れた人も多い」と同法人の田村真司専務理事(70)。11年から続く移動サービスは、過疎化にあらがう地域に欠かせない存在となった。

 マツダは18年12月、この事業に参画した。CX―5を1台貸し出し、コンピューターで予約や運行管理ができるシステムも提供。市や広島県とも連携した実験と位置付ける。約130の国と地域に販売網を築くマツダ。山あいの地での移動支援に目を向けたことには理由がある。社会が車に求める性能や役割の変化だ。

 海外では環境規制が厳しさを増す。国内でも少子高齢化と若者の車離れで需要の縮小が見込まれる。逆風の中、自動車メーカーは二酸化炭素(CO2)の排出を抑え、運転も支援するCASEの開発が急務となっている。三次の事業も、CASEの中のシェアリング(共同利用)に当たる。

 マツダはさらに、走行中に道路からのはみ出しを防ぐ安全な車づくりも見据える。CASEに含まれる自動運転の進化を目指し、車載カメラなどで走行データを収集。車線のない山道でも道路の形を読み取る技術を開発する考えだ。

 運営システムの利便性も磨く。利用者は電話に加えてスマートフォンのアプリからも予約可能。運転手のタブレット端末にはその日の運行経路を事前に表示する。法人の事務所のパソコンから車の場所は常に確認でき、事故などのトラブルを把握しやすくなった。

 無人での自動走行を目指すメーカーもある。だが、マツダの工藤秀俊執行役員(58)は「それでは無機質なサービスになる」と受け止める。車を通じた人と人との関わりを重視する。運転操作を失敗しても事故を回避できる仕組みがあれば安心と、住民も受け止める。田村専務理事は「この地で100歳まで元気に暮らせるのが理想」と開発に期待を込める。

 移動サービスの普及には、収益性の確保や通信網の充実も課題となる。それでも、車を造って売るビジネスだけでは今後の成長は見通せない。三次市に試験場を構えるマツダ。関わりが深い「もう一つの地元」の課題解決に協力しながら、会社の明日を切り開こうとしている。

 ■技術

 ▽人間中心の考え方 工藤秀俊執行役員

 車づくりの根底にあるのは人間中心の考え方だ。走る喜びを感じられる車で人生に輝きを提供し、人の心と体を元気にしたい。その思いはこれからも変わらない。CASEに限らず、新技術は社会課題を解決するために必要だ。例えば自動運転は車の安全を高めるために磨くべきもの。電動化は車が地球や社会と共存するための技術だ。

 過疎地での交通の課題は、自動車に関わる企業として解決しなければならない。三次市での実験は始まったばかり。移動サービスの利用を増やすため、地元のバスやタクシー業界と連携して住民の行動範囲がさらに広がるようにしたい。人と荷物を一緒に運び、過疎地での運送業者の仕事を効率化する構想もある。

 モネ・テクノロジーズでの協業は、システムづくりなど他社と成果を共有できる部分が多い。個々の会社でやるのは非効率で、マツダのようなスモールプレーヤーには不利になる。モネは都市部でも移動サービスに取り組んでいる。マツダの中山間地域での結果と合わせて課題解決を進めたい。

 ■連携

 ▽トヨタと関係強化

 次世代車の開発を視野に、国内で自動車メーカー同士の協力関係が強まっている。マツダは電気自動車(EV)などの開発の効率化を見据え、トヨタ自動車と2017年に資本提携を結んだ。米国で21年から操業する予定の新工場は、共同運営でコストを抑える狙いもある。

 マツダは19年、移動サービスを展開するモネ・テクノロジーズ(東京)に出資した。モネはトヨタとソフトバンクが異業種連携で18年に設立し、今はホンダやSUBARU(スバル)、スズキ、いすゞ自動車など自動車8社も参加。福山、東広島、府中の各市など全国で移動支援に取り組む。

 トヨタの動きは活発で19年にはスズキと資本提携。スバルへの出資比率を引き上げた。国内はトヨタ連合と日産自動車・三菱自動車、ホンダの3陣営に分かれ、海外を含めた激しい競争に立ち向かう。

 ■EV

 ▽市場応じ売り分け

 電動化の領域でもマツダは新たな動きを見せる。今秋発売するスポーツタイプ多目的車(SUV)のMX―30はEVとガソリン車を用意し、市場に応じて売り分ける。

 環境規制の強い欧州では、マツダ初の量産EVとして売る。日本向けは簡易型ハイブリッド車(HV)。通常はエンジンで走り、モーターで発進や加速を後押しする。EVのリース販売もする。

 ロータリーエンジン(RE)を発電用に載せる計画もある。ただ、導入時期は明らかにしていない。

 トヨタ自動車との資本提携も徐々に成果が出ている。17年に共同設立した会社「EV C.A.Spirit」(名古屋市)はEVの基盤技術を完成させ、6月で業務を終えた。同社にはスズキやスバル、ダイハツ工業、日野自動車も参画。今後は各社がこの技術を生かした商品づくりを進める。(村上和生)

 <クリック>CASE(ケース) 次世代の自動車技術として注目を集める。インターネットとの接続性(Connected)、自動運転(Autonomous)、共同利用(Shared)、電動化(Electric)を意味する英単語の頭文字をつなげている。関連分野では市場の拡大を見込んで異業種による参入の動きもあり、既存の自動車メーカーは危機感を募らせている。

この記事の写真

  • 運転手用のタブレット端末。その日の運行経路が地図で表示される
  • 工藤秀俊執行役員
  • 資本提携に合意し、トヨタの豊田章男社長(左)と握手するマツダの小飼雅道社長=当時(2017年8月)
  • マツダが欧州で発売するEVのMX―30

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