リポーター発

アメリカ

愛犬専門の看護師   早坂知栄子

2013/7/19

愛犬と看護師
 ホノルルからパリ峠をこえて裏オアフに出ると、このところ日本からの観光客にブームとなっているカイルアの町がある。そこから西へ10分くらいドライブ。ゴルフコースを一つ越えてワイマナロの村がある。後ろ一面をコウラウ山脈が囲っていて、山肌が縦に風化の深いひだを持っているのが面白い。

 山脈の麓がハワイ州所有の広大な農業地区になっている。ハワイ大学の農林試験場もある。農業を目指す人たちが用水路も含めて割安に借りて利用できるようになっている。農家ならば、借りた土地に住居を建てることもできる。

 そこで私の親しい一家が、ハワイ特産のレイにする花を栽培しながら、立派な住宅を建てた。大きいプールも備えるが、周りが畑と山だけだから寂しく不用心でもある。そこで、もともと犬が大好きだったので、シェパード犬を飼うことにした。
 
 一家は40年もの間セパード犬だけを3、4匹飼っていた。過去につらい別れを幾度経験したことであろう。
時は過ぎ、そのときの犬は居なくなって、いまは2頭になっている。この2頭は、同じ母親から同時に生まれた兄弟で、ことし10歳になる。いつも一緒で、1日たりとも離れたことが無いという。

 9歳をすぎる頃から一方の茶色がかった犬「ダンケン」の体の動きがちょっと不自然になったようだった。体重60キロを超えている2匹を病院に連れて行くのは楽ではない。真っ黒の犬「ブラッキー」は元気よくテニスボールをかじっている。ダンケンはもちろんすぐ病院に連れて行かれた。肩のあたりを集中的に手術をすれば、もとに戻るだろうとのこと。

  どうしようか、眠らせなければならないか。一生懸命考えているうちに、ダンケンの様子が幾分よくなってきた。ところが今度はブラッキーの後ろ足がおかしくなったようだ。とうとう両足を引きずって歩くようになり、それすら出来なくて横倒しになったままになってしまったそうだ。

在宅ホスピス介護のロゴ

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看護師とブラッキー

看護師とブラッキー

 今度こそ駄目か、と飼い主は考えたそうだ。そんなとき、獣医師から、犬専門の看護師がいるから頼んでみたらと言われた。あまり期待することなしに依頼し、驚いたという。

 まず犬が看護師の女性を信頼しきった様子で「くうくう」と嬉しそうな声をあげている。小柄なその彼女が、ブラッキーの腰に両手を回して、よいしょっと持ち上げた。自由を失った大型犬の下半身は動かせない重さなのでびっくりすると、「これはこつの問題でね」とすましている。

プールで救命胴衣を着けてリハビリ

プールで救命胴衣を着けてリハビリ


 そして次は車いすのような、大きい車輪つを腰の下に2本のアルミ管で固定してもらった。シンプルなデザインで軽量。犬に負担がかからない。ブラッキーは車輪をつけてもらうと動き回る自由が戻ることが分かるようで、器具を付けている間、邪魔するようなことは一切しなかったらしい。

 後ろの足を引きずって歩いていたころ、地面にこすれ、血が出ていたのを、真っ白い包帯でおさえているのが痛々しい。車輪がついて、足がぶらぶら地面に触れないよう、優しく輪状のバンドで持ち上げられている。

 さあ、これで外出準備が完了した。看護師さんがフェンスを開けると、喜び勇んで車を引いたブラッキーが広い外の世界に出て行く。

兄弟犬ブラッキーとダンケン

兄弟犬ブラッキーとダンケン

 ほどなく、ブーゲンベリアの根方の1カ所を注意深く嗅いでいる。どうやら前回ここにおしっこをしたらしい。同じあたりに今度も用を足すと、もっと遠いジンジャ畑のほうに向かって歩きだした。後を追ってみると、7、8メートル先に、昨日したウンチが残っているのが見えた。看護師さんは、急ぐことなく、やさしく犬を次の行為に導く。

 見るからに気持ちよさそうになったブラッキーは、兄弟が待っているベッドの方に向かっている。「ちょっと待って! まずあなたのお尻を洗いましょ」と手際よく水をかけながら、歩行援助の車輪を外す。

 ゆっくり、はいずりながらダンケンに近寄っていく。そこには真っ白な防水マットレスが、周りに3枚、真ん中にもっと幅広い、クイーンズ・サイズのものが3枚重ねられていて、ダンケンは一番上に悠然と寝そべっている。今のブラッキーは、そこまで上ることができない。それどころか、最初の一段も上れない。でも、下には厚いタオルが敷いてあるので、気持ちよさそうに横になった。

 もうひとつやることがある。それはプールでの水泳である。この家には、競泳プールなみの立派なプールがある。まさかこれが何時の日か、愛犬のリハビリに使われることになろうとは想像もしなかったろう。

 もともと水が大好きな2匹だったから、プールサイドにくると、目の輝きが違ってくる。ただ気をつけなくてはならないのは、ブラッキーは体が不自由だということで、どのくらいの浮力があるのかわからない。

 そこで、犬用の救命胴衣を着用させる。そうすると、元気いっぱい泳ぎ回り、投げてやったテニスボールを追いかけては口にくわえて帰ってくる。全身の筋肉運動になっていることは言うまでもない。

 プールの出入りだけは、ヘルパーの手を借りなくてはならない。救命具に取っ手がついているのだが、水にぬれた大型犬は重い。
看護師さんの名前はシャノンさん、そのあと全身マッサージもしてくれる。こんな手厚い介護でダンケンとブラッキーが一日でも長く生きてくれることを願わずにはいられない。 (早坂知栄子)

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