リポーター発

アメリカ

モロカイ島カラウパパの今

2013/10/21

ラグーン・ドライブを突き当たりまで行くと、右手にずらりと並んだ小型機の駐機場と格納庫がある。ここに、姉が所有する自家用双発機・ビーチクラフト「バロン」が美しい姿で待っている。今回の目的地はモロカイ島のカラウパパである。
 カメハメハ5世は1865年、ハワイにまん延していたハンセン病を抑制するため、患者を隔離する決定を下した。モロカイ島の北に突き出た半島をその地とした。
 半島は、海底火山の噴火によって隆起した場所で、後ろが断崖絶壁、前方は荒海。人を閉じ込めておくには理想的なところだったのである。
 世界の人口の95l以上はハンセン病に対する免疫を持っている。1940年代に新薬も開発され、現在では、伝染病としては最も危険度の低いものとされている。しかし、当時は不治の病として人々に恐れられていたのである。
 1866年1月に、最初の男女12名が送り込まれたと記録に残っている。その後送り込まれたハンセン病患者は数千にのぼり、悲惨な生涯を送ったという。これが世界中の宗教界に伝わり、1873年には有名なベルギーの聖職者ヨセブ・デヴァウスターがやってきた。
 ローマン・カトリックのダミアン神父として患者の生活を向上させるために活動するが、自身も同病に侵されて死亡する。


ホノルルの空港を離陸後、機はダイヤモンド・ヘッド上空を過ぎて、モロカイ海峡に差し掛かる。泳いで渡った人もいる近場だが、モロカイ海峡の荒れ方は尋常ではない。姉が見事な操縦でモロカイ島上空に到達すると、滑走路が視界に入る。
 左手に山脈があり、右手は海だからしっかり風が吹いてくる。機が幾分揺れる。滑走路の真ん中に描かれた白線に飛行機がまたがったとき、副操縦士が50、40、と着地までの高度を読み上げていく。
 タッチ・ダウン! 完璧だ。静かなモロカイ空港である。ここで、カラウパパを案内してくれる、航空局の職員キム・スミス氏をピック・アップする。
 カラウパパは、空港からすぐ近くなのだが、断崖を一本の小道を伝って降りるか、空から舞い降りるかしか到達できない。それに、かつて管理していた衛生局が、今も外部からの訪問者を1日100人までと定めており、永住者(かつての患者)の招待者か、ツアーメンバーかでないと入れない閉鎖社会なのである。
 もう一度、離着陸を重ねて、かわいらしいカラウパパ空港に降り立った。キム氏は無人ターミナル・ビルの隣の倉庫を開け、必要なものを手にすると、駐車してあった黄色のピック・アップ・トラックに導いた。


このトラックに乗って、カラウパパの見学をするのである。出発後間もなく、右手にたくさんの墓標が見えてきた。何百、いや何千であろう。こんなにたくさんの人がこの地で亡くなったのである。


 左手には一戸建てが、適当な間隔で並んでいる。キム氏は、「ここは誰々の住んでいたところ」「あれは誰々」と指さしながら、「住人が死去したので、今は空き家になっている」と説明した。


今は、医者も看護師も常駐しておらず、「訪問者のための医療設備はありません」との看板が出ていた。いまも残っている患者のために、毎月、医療関係者が訪れる。昔の病院跡とか、大掛かりなハンセン病調査ステーションなどに、多くの人たちが詰めていたのを考えると、なにか不思議な気さえする。
 ちなみに、現在住んでいる「患者」は7人だそうである。みな年老いた人たちで、地域の外に出ても、変な目で見られたり、高い生活費に悩まされたりするのなら、いっそここで静かな生涯を送ったほうがよいと決めているのだという。
 連邦政府も、州政府も国立歴史公園としてそれぞれのスタッフを配置して管理を行っている。これらの人たちも、以前から残された家や事務所を引き継げるので、非常に低い生活費で済む利点があるそうだ。
 消防署には、古い消防自動車が1台だけ。隣の警察署には警官がおらず、島にいる公務員の何人かが、いざとなれば銃を持って出動することになっている。
 隔離場は、初めは半島の北東カラワオにあって、カラワオ・セトルメントと呼ばれた。いま見れば、深緑の美しい海だが、当時は、船で運ばれて来たハンセン病患者は、岸から離れた海に投げ込まれたという。泳げずに、そのまま溺れ死んでしまった人もいたという。

 デミアン神父はここで活躍したことが、記録などに残されている。カラワオは、寒くて風も強い。1932年以降は、もっと暮らしやすいカラウパパに生活拠点が移されている。
 カラワオは、今では昔の面影は全く無くなり、道の両側にはびっしり低木が育っていた。一帯は静かそのものだ。案内書きには「この自然歴史公園は静かに余生を暮らす人たちのためでもあるので、プライバシーを妨げることのないように」と、刷られている。
(早坂知栄子)

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