リポーター発

イギリス

イギリス・夏 秘伝のお酒と太陽と

2015/6/2

 夏至に向かってどんどん日が長くなり、私が暮らすロンドンでは、午後9時を過ぎても外がまだ明るい。好天に恵まれず、いまだにどんよりした寒い日も多いが、ひとたび太陽が姿を見せると、町中にある木々の緑や色とりどりの花は実に鮮やかで美しい。
 そんなイギリスの夏を彩る風物詩の一つに、ピムスというお酒がある。パブやスーパーでピムスの文字を見かけると、いつの間にか夏が来たことを実感する。日本でいうと、飲食店の軒先に「冷やし中華始めました」と紙が張られるのをイメージしてもらえれば分かりやすいだろうか。
 もととなるリキュールはいくつか種類があるが、最も一般的なのはジンベース。ハーブやスパイスの香る少し癖のある味である。レシピは秘伝中の秘伝だそうで、それを知るのは世界で6人のみといううわさもある。これを炭酸飲料で割り、イチゴ、オレンジなどのフルーツ、レモン、キュウリ、ミントの葉を入れてカクテルを作る。
 キュウリの存在が異質であるが、それには理由がある。19世紀、ピムスが世に出た当時、キュウリは貴重な野菜であった。そのため、上流階級の人々の間で富の象徴として好まれ、流行したそうである。ちなみに、アフタヌーンティーのサンドイッチに必ずキュウリサンドがあるのはその名残である。
 また、上流階級が開く夏の社交イベントで好んで飲まれていた。現在でも、ロイヤルアスコットというイギリス王室主催の競馬や、テニスのウィンブルドン選手権などの会場では欠かせない飲み物となっている。
 人々が仕事を終える午後5時や6時ごろは、昼すぎのような明るさなので、テムズ川沿いの芝生では、ピムスのピッチャーを脇に日差しを浴びる集団であふれかえっている。雨と曇りが多いためか、日光への並々ならぬ執着を感じる。
 パブでも、店外は店自体が見えないほどの人だかりなのに、店内に入ると、席が空いているのを何度も見た。晴れた日には、ここぞとばかりに、太陽と緑に感謝しながら、ほろ酔いでアフターファイブを楽しむ。これがイギリスの夏の醍醐味(だいごみ)なのかもしれない。(浜家尚美=ロンドン在住)


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