リポーター発

イギリス

英国・聖夜 ディケンズの魔法

2015/12/31
ロンドンの目抜き通りであるオックスフォード通り。電飾でクリスマスムードが盛り上がる 

ロンドンの目抜き通りであるオックスフォード通り。電飾でクリスマスムードが盛り上がる 

 ことしも英国のクリスマスシーズンが始まった。テレビをつければ、クリスマス用の商品を宣伝するCMが盛んに流れる。市内の大通りでは、彩られたクリスマスツリーと芸術的な装飾を施したクリスマス仕様のショーウインドーが買い物客を出迎える。
 この時季、英国人たちは、実家などへ帰省する計画を立て始める。多少無理をしてでも、クリスマスを家族や友人と過ごし、お互いの愛や絆を確かめ合う。レストランはクリスマスディナーの予約を始め、文房具店ではクリスマスカードが数多く並び、選ぶのに困るほどである。
 恋人同士が高級レストランで食事をする日と化した日本とは事情が異なり、英国のクリスマスにはどこか博愛的な雰囲気が漂う。実は私たちが知る、こうしたクリスマスは19世紀初頭のビクトリア時代以降に定着したといわれている。
 その形成に大きな影響を与えたのが19世紀の英国の文豪チャールズ・ディケンズである。19世紀初頭の英国は産業革命を経たばかり。急速な工業化や都市化が進んだ半面、貧富の差が拡大し、失業者が増えた。さらに疫病の流行やスラム街の発生、長時間労働に、児童労働といった都市問題も噴出した時代であった。
 ディケンズはそうした社会問題をつぶさに観察した。彼自身も父親の借金問題に悩まされ、12歳で靴墨工場へ働きに出ている。その後の新聞記者時代、機械打ち壊し運動や階級社会に根ざした食料暴動を垣間見る。作家に専念してからも中部の工場地帯を取材するなど、まさに社会派作家だった。
 その後、1843年に彼は小説「クリスマス・キャロル」を世に出す。持つ者と持たざる者を描き、持つ者は持たざる者へ助けの手をさしのべるという明確なメッセージを込めた作品。同じころ、小説の影響を受けてか、英国のクリスマス風景に変化を起こすさまざまな出来事が起きた。
 小説が刊行された年に世界初の商業用のクリスマス・カードが誕生した。後のビクトリア&アルバート博物館の初代館長を務めるヘンリー・コールが制作した。47年にはロンドンの菓子職人がクリスマス・クラッカーを発明したと伝わる。こうして既にドイツから伝わっていたクリスマスツリーを飾る習慣とともにクリスマスの風物詩がそろった。
 「クリスマス・キャロル」は今でも大人気の作品である。英国で寄付が盛んなのは、この本に起因するのではと思うほど。英国は現在も、ディケンズの魔法にかかっているのだろう。(渋谷英秋=ロンドン在住)

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