リポーター発

トルコ

トルコ・スパイス香る伝統パン

2017/4/11
ディヤルバクル・チョレイを焼く店主のニザメッティンさんたち

ディヤルバクル・チョレイを焼く店主のニザメッティンさんたち

 南東部にクルド人の都とも称される街、ディヤルバクルがある。ここにある城壁は、世界最長の「万里の長城」にははるかに及ばないが、それに次ぐ長さを誇る。城壁の中は、隊商宿、銅や銀製品の職人工房が軒を連ねる魅力あるエリアだ。
 「これは一体何の香りだろう」―。午後7時半ごろ、城壁近くにあるパン店の前を通りかかった時のこと。変わった香りに誘われて店内へ入ってみた。この地でよく食べられるディヤルバクル・チョレイというパンを大きな窯で焼いている最中だった。
 オーナーのニザメッティンさんによると、チョレイとは、食事やパンを意味する昔の言葉だそう。小麦粉や牛乳、マーガリン、酵母、塩を混ぜて、そこにシナモン、フェンネル、マフレブ(さくらんぼの原種)のパウダーを混ぜ込む。それを一握りの団子状にして寝かせた後、約20センチに薄く広げる。表面に切れ込みを入れ、溶いた卵黄を表面に塗り、ごまをふって窯へ。あの香りは生地に加えるスパイスが正体らしい。
 パンといえば朝のイメージ。なぜ午後7時半に焼き始めるのか尋ねた。日中はまきをたいて高温にした窯でピデと呼ばれるパンをまず焼く。チョレイは窯の温度が適度に下がった後に作るためという。石窯の余熱だけで焼き上げるわけだ。
 店内には近所の常連さんの姿も。男性は「いつもこの時間には焼き上がるんだ。この香りが家まで来るんだよ」とにっこり。夜の8時を過ぎても来客が絶えない人気の一品だ。いただくと、パンとクッキーの中間といった食感。冷めたほうがよりおいしいそうで、翌朝に食べたり、チャイ(お茶)と一緒に夜食にしたりするそうだ。意外だが本当はお茶請けとして食べるものらしい。
 この日はイスタンブールから大量注文が入ったそうで、午後9時すぎの飛行機に間に合うようフル操業だった。この道35年というニザメッティンさんは「質のよい材料を使っているので本当においしいんだ。みんなにとても喜んでもらっているよ」と笑う。
 ニザメッティンさんによると、このチョレイは紀元前からトルコ南東部地域に住むスリヤーニ(現キリスト教)にとって特別なパンとして長い歴史があるとのこと。隣県のマルディンやウルファ県でも形や硬さは違うが、似たものが食べられている。今では多数派となったイスラム教にも根付き、宗教上の特別な日に各家で作り、お客さんに振る舞ったりするという。
 異教徒から影響を受け、長い年月、ディヤルバクルで生活の一部として食べられてきたこのチョレイ。この土地にいてもそうでなくても、ディヤルバクルを象徴する食べ物として、これからも人々の生活の中で生き続けていくのだろう。(岡崎伸也=コンヤ在住)

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