リポーター発

カンボジア

【カンボジア】 道路に「あうんの呼吸」

2019/11/6
バイクや車が行き交う混沌とした交差点

バイクや車が行き交う混沌とした交差点

 「こんなところ、どうやって渡ればいいか分からない!」。プノンペンに住み始めた今春、当時5歳の娘は、家の前の道を渡ろうとしてパニックで泣きだした。
 片側2車線で中央分離帯があり、交通量も割と多い道路。しかし、信号や横断歩道は近くにない。横断する必要がある時は、車の往来を見ながら「今だ!」と、まず中央分離帯まで進む。次は反対車線の様子を観察し、車の流れが途切れたタイミングを見て端まで渡り切る。首都プノンペンでさえ、信号や横断歩道が決して多くないため、このような「作法」が必要になる。
 小学生たちが横断するときは、危なっかしくて見ているこちらがひやひやする。しかし、当の本人たちは、手を上げて車に渡る意思を示し、行き交う車の間を縫うように、焦ることもなく堂々と渡っている。私の娘も、今では、周りの様子に気を付けながら、落ち着いて横断できるようになってきた。
 カンボジア、特にプノンペンの道路事情を一言で表すならば「混沌(こんとん)」。ざっくりとした交通ルールは存在するが、どこから何がどのように動いてくるか、予測のつかない事態に遭遇する場面が多々ある。信号がない場所での横断は日常茶飯事のため、運転者も歩行者を見つけると、少しスピードを緩めてくれたり、バイクが進路を譲ってくれたりする。「あうんの呼吸」とでも言ったらよいのか、臨機応変な判断力と行動力、その一瞬の出来事に見入ってしまうことがある。
 道を走っているのは、車やバス、バイクだけではない。配車アプリの普及で利用が便利になった小型タクシー「トゥクトゥク」や、バイクの後ろに人や物を運ぶ荷台を付けた「ロモ」と呼ばれる車両も多い。馬力のあるバイクの後ろには、いろいろなタイプの荷車が取り付けられ、大量の荷物をひもでくくり付けて運んでいるのをよく見掛ける。
 車は、韓国や欧州メーカーもあるが、最も多く見るのは日本車だ。バイクはほとんどが日本製。最近ではかわいらしい色やデザインのミニバイクもよく見掛ける。バイクに乗車人数の制限はないようで、3、4人、時には家族5人で1台のバイクに乗っていることもある。運転する方も、後部に乗る方も絶妙な体のバランスを必要とされるが、これもまた慣れなのか、バイクとの一体感が素晴らしい。プノンペンでは、通勤時間帯の交通渋滞が半端ではないが、バイクはずらりと並ぶ車の間をあみだくじの線をたどるように軽やかに進んでいく。
 私が青年海外協力隊としてこの国で活動していた10年前に比べると、カンボジアの道はだんだんと整備され、この国の発展を支えている。10年前、観光の街シェムリアップからプノンペンに続く国道に、中央線が引かれ始めた。その様子を見て、「こうして一つ一つインフラが整い、国は発展していくんだな」と、思わず写真を撮ったことを覚えている。その道には、今は幅の広い中央分離帯ができた。そこには美しい南国の花々が咲き誇り、変わりゆくカンボジアの道路事情をそっと見つめている。(鍵山彩=プノンペン在住)

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